3月18日発売の新刊小説『可制御の殺人』でデビューした松城明氏。学生時代から小説を書き始め、九州大学大学院在学中に第42回小説推理新人賞の最終選考まで残った「可制御の殺人」を執筆した。同作は選考委員の長岡弘樹氏に高く評価され、その後、「可制御の殺人」に連なる短編5本を書き足して1冊にまとめたのが本作だ。

「鬼界」という他人を意のままに操るダークヒーローが暗躍する連作ミステリーは大学院時代の研究のときに想起したという。工学を学び、現在は就職してメーカーで製品の設計、開発をしているという松城氏。異色の経歴をもつ25歳の若き才能に話を聞いた。

 

大学院時代の研究のとき、人間も機械と同じでシステム同定できるのでは、と思ったんです

 

──『可制御の殺人』での小説家デビュー、おめでとうございます。まずは小説家を志したきっかけ教えていただけますか。

松城明(以下=松城):ありがとうございます。小説家を志した具体的なきっかけは思い出せませんが、一生に1冊は本を出したいと小さいころから漠然と考えていました。「どんな人間でも一生に1冊は傑作が書ける」という言葉をどこかで聞いたからだと思います。

──一生に1冊は本を出したい、と願っていた松城さんが、はじめて書いた物語はどんなお話だったんですか?

松城:大学1年生のとき、高校を舞台にしたSFミステリを書きました。群衆の無意識のエネルギーが物理的な破壊力になる話です。どうしてそんな話を書こうとしたのかは謎ですが、書くこと自体がとても楽しかったのを覚えています。

──小説を書く上で松城さんに影響を与えた作家がいれば教えてください。

松城:中高生のころから好きだった作家は米澤穂信さん、恩田陸さん、貴志祐介さんです。ミステリーでは綾辻行人さん、西澤保彦さん、麻耶雄嵩さん。SFでは伊藤計劃さん、神林長平さん、上遠野浩平さんも好きです。

──工学部出身で今はメーカーで設計、開発をしている松城さんにとって、小説を書くこととお仕事の共通点はありますか?

松城:最初に全体の構想からスタートして詳細を詰めていく過程がよく似ていると感じます。ある部分を修正しようとしたら他の部分に足を引っ張られたり、細部のミスが全体に波及したりするところもそっくりです。

──逆にお仕事と小説執筆の一番違うと思う点はなんですか?

松城:設計開発の仕事には空間的・物理的制約がある一方で、小説執筆には言葉を使うこと以外の制約がありません。たとえミステリーであっても、物理法則を破ったり、魔法のような力を描いたりすることができます。世界を支配するルールを自分で設定できるか否かが両者の一番異なる点だと思います。

──ミステリー小説を書く上で気をつけていることは何ですか?

松城:謎解き一辺倒のミステリーは書くのも読むのも好きなのですが、謎解きに偏重しすぎて読みやすさが損なわれてはいけないので、キャラクターや会話の軽さでバランスを取るようにしています。

──キャラクターに気をつけている、とのことですが、本作では鬼界というなんとも不気味な男が暗躍します。「人間も機械と同様、適切な入力(情報)を与えれば思い通りの出力(行動)をする」と言い放つ、特異なキャラクターを想起したきっかけを教えていただけますか。

松城:大学院時代、人間が姿勢を維持するシステムを同定するという研究をしていたとき、人間の精神に対しても同じ手法が使えるのではないかと考えたのがきっかけです。そこから他者の精神をシステム同定する鬼界の設定を思いつきました。連作短編を書くにあたって、様々な事件に裏から関わる謎の人物というのは使い勝手が良さそうだという計算もありました。

──実際書き始めて、鬼界を描くうえで注意したこと、大変だったことは何ですか?

松城:鬼界をどこまで人間離れした存在にするか、その塩梅には悩みました。当初はもっとSF色の強いキャラクター設定で、端的に言えば宇宙人だったのですが、編集者の方のアドバイスもあって現在の形に落ち着きました。

──本作は鬼界を中心に、6つの短編で構成された連作小説ですが、書く上で意識したこと、6つの物語に共通しているメッセージや意図があれば教えてください。

松城:バラエティ豊かな連作にしたかったので、ミステリーとしての形式や登場人物の設定にはなるべく変化をつけるようにしました。共通したテーマとしては、以前から興味があった「人間に自由意思は存在するのか」という疑問をストーリーの中心に据えています。また、群像劇という形式、新人類と旧人類の対立という構図は、上遠野浩平作品を意識したところがあります。

──本作でデビューを飾られた松城さんですが、今後書いていきたいジャンルや具体的な設定などはありますか?

松城:殺人ロボットが事件を解決する、ミステリ版『戦闘妖精・雪風』のような話を考えています。『可制御の殺人』の続編や、鬼界の高校時代を舞台にした前日譚もいずれ書きたいです。

──ありがとうございます。では、最後に読者にメッセージをお願いします。

松城:インタビューを最後まで読んでくださってありがとうございます。この記事を通して、松城という人間の書いた小説に少しでも興味を持っていただけたら幸いです。