二度読みをお薦めする。

 いや、そんなことを言われなくても、読み終わった時点ですぐに頭から読み直し、あれこれ確認したくなることだろう。それほどまでに〈真相〉は読者の意表を突く。

 もちろん、読者は序盤から何かあると感じるだろう。漠然とこういうことではないかという想像もするだろう。そしてそれはあながちハズレでもないかもしれない──のだが。それでも遡って確かめずにはいられないほど、終盤の展開は急転直下なのだ。

 物語の視点人物は複数いるが、最初に登場するのは栄子だ。母・由布子と、新しい父との三人家族。栄子は母の命令で毎日日記を書き、それを読んだ母が指令を書き加えて返してくる。その指令に逆らうことは許されない。父もまた、すべてにおいて母の言いなりだ。

 その指令も奇妙である。マンションの隣に住む高校一年の美湖と親しくなれ、という。栄子は登校時間を合わすなどして美湖と距離を縮める。すると次は、恋人を譲ってやれ、と来る。そして次は、美湖に嫌われろ──。

 もうひとりの視点人物はその美湖である。有名な高校に通う美人の栄子に憧れると同時に、栄子の家庭教師にもほのかな思いを抱くようになる美湖。しかしなぜか美湖とその家族の周囲に、次第に不穏な波風が立ち始める。

 何だこれは? 読者は混乱するが、実は栄子も混乱している。栄子にも母の意図が読めないのだ。美湖との接し方のみならず、普段の振る舞い方から家庭教師との付き合い方まで栄子に指示してくるのにその理由がわからない。

 いったい何が起きているのか。この物語はどこへ向かうのか。その興味が読者を惹きつけるのはもちろんだが、それと同時に、この家族は何なんだ? という最も基本にして最も大きな謎が読者を搦め取る。家族の形があまりに不自然なのである。栄子はなぜ母の理不尽な命令に諾々と従うのか? すべてを見通しているようにも思える家庭教師の狙いは? そして由布子の最終的な目的は?

 いくつもの謎が読者を引っ張り、翻弄し、怒濤のクライマックスへなだれ込む。浮かび上がる絵は、読者の予想を嘲笑うかのように残酷で、意外なほど切ない。そして読み返せば、鏤められた伏線にため息をつくことになるのだ。

 雑誌連載時のタイトルは『絶望マニュアル』だった。絶望するのは誰なのか。悠木シュンの描く〈絶望〉をとくと味わっていただきたい。