現代伝奇バイオレンス。それは一九八〇年代中頃から九〇年代にかけてエンターテインメント・ノベル界の大ブームとなった新ジャンルである。原動力となったのは、夢枕獏と菊地秀行であり、それに多くの作家が続いた。一九六六年生まれの鷹樹烏介は菊地秀行のファンだそうだが、年齢的に見て十代の終わり頃から二十代にかけてが、現代伝奇バイオレンスのブームの真っただ中だ。きっと浴びるほど読み、自分でもそのような作品を書きたいと思ったのだろう。第五回ネット小説大賞を受賞した『ガーディアン 新宿警察署特殊事案対策課』でデビューしてから、現代伝奇バイオレンスを書き続けている。ただし先行作品を、単純に追随しているわけではない。大きな特徴として、警察小説の要素を盛り込んでいることが挙げられる。だから独自の“現代”伝奇バイオレンスになっているのだ。
『カーン聖仙教』が地下鉄サリン事件を起こした後、省庁の垣根を越えて作られた反社会的な宗教法人やテロ組織を監視するチーム『ラグエル』のメンバーが、次々と不審な死を遂げた。どうやら敵は呪術を使っているようだ。この事態に対処するため警視庁公安部に、特異集団監視捜査第四班――通称「第四トッカン」が設置された。メンバーは四人。呪術エリートの家系に生まれた井手口仁三郎。呪詛を練り込んだ弾丸を使う超スナイパーの志茂兵衛。七十五匹の霊的管狐と感覚を共有する、凄腕詐欺師の御車千鶴。姉の仇討ちで三十六人のヤクザを惨殺した、奇剣『入月一刀流』免許皆伝の飯笹永子。彼らは呪いによる大虐殺を企む謎の敵と、魔戦妖戦を繰り広げる。
それぞれに特異な能力を持つ主人公チームは、新宿中央公園で『ゴーレム』と、三原山では『七人ミサキ』と激突する。こういう、人知を超越した戦いを待っていた。山のように盛り込まれたオカルト・ネタは、分かる人なら大喜び。もちろん分からなくても、楽しく読むことができる。エンターテインメント作家としての、作者のバランス感覚は抜群だ。
さらに『入月一刀流』と、身に刻まれたタトゥーを使う『露聖教会古儀式派』との死闘を経て突入したクライマックスは、血が沸騰するような面白さだ。
しかし第四トッカンは、いろいろ逸脱することがあっても、あくまで警察の一部署として動く。この設定が秀逸。伝奇と現実を巧みに融合させた、現代伝奇バイオレンスの最新型がここにある。