お金――欲しいですよね。コツコツ働いて貯めるのが王道ですが、一気に大金をつかむ方法があります。貧乏から脱け出すために男が選んだその方法とは。

 大ヒット映画『22年目の告白』『AI崩壊』の小説版や『お父さんはユーチューバー』で感動を巻き起こした著者が描くビジネスエンターテインメント。

「小説推理」2022年1月号に掲載された書評家・細谷正充さんのレビューと帯デザインと共に『闘資』をご紹介する。  

 

『闘資』浜口倫太郎 帯

 

■『闘資』浜口倫太郎

 

 ユーチューバー、漫才、米作り、ゲーム、AI、鯨、小学校の閉校……。浜口倫太郎が扱う、小説の題材は幅広い。そんな作者が新たに取り上げた題材が、ベンチャーキャピタリストだ。起業家のスタートアップに、資金を貸す人のことである。

 広島の高校に通う関大輔は、剣道で全国大会を狙っていた。また、成績優秀な高橋修一と、プログラミングの得意な三登千奈美と仲がいい。しかし借金を背負った父親が失踪してから、大輔の家は貧乏になり、苦しい生活が続いていた。母親の後押しで大学に行く可能性もあったが、同級生の大石雅敏の嫌がらせによって潰される。父親が一成銀行というメガバンクのお偉いさんである雅敏は、金がないのに大学進学を目指す大輔が気に食わなかったのだ。

 そんな雅敏を殴ってしまった大輔は、高校を退学になる。双子の弟妹、洋輔としずくと共に東京に出たが、仕事は肉体労働だ。さらに仕事関係の人から、屈辱的な扱いを受けるが、今田賢飛という男に助けられる。賢飛が『あかぼしキャピタル』の社長で、ベンチャー業界の風雲児だと知った大輔は、彼の弟子となり、ベンチャーキャピタリストを目指すのだった。

 冒頭からしばらく、貧乏ゆえに踏みつけられる大輔の人生が描かれる。これが辛い。だが、だからこそ賢飛の薫陶や、『あかぼしキャピタル』の社員の風林凜の説明を得て、大きく飛躍しようとする大輔の行動に心が湧き立つ。そんな大輔のために、修一と千奈美が立ち上がる。AR(拡張現実)を使った、新たな事業に邁進する3人の姿に、ワクワクしてしまうのだ。

 その一方で、一成銀行が始めたベンチャーキャピタルの責任者として雅敏が現れる。しつこく大輔に絡む雅敏の妨害工作が、ストーリーをさらに盛り上げるのだ。なお、窮地に陥った大輔たちに協力するのが『シンマイ!』の登場人物だというのは、作者のファンにとって嬉しい驚きである。

 さて、このように楽しく読み進めていると、後半でストーリーが、予想外の方向に転がっていく。貧乏から抜け出したい、弟妹たちの将来を豊かなものにしたいと思い、大金を求めてきた大輔。だが金があれば、本当に幸せになれるのか。ミステリー的な意外性も加えながら、作者はこの問題を深く掘り下げていく。本書はエンターテインメント作品であるが、その根底には真摯なテーマが横たわっている。そこに作品の魅力があるのだ。