銭湯好きの多くは、サウナも好きだったりする。

 

 かくいう私もサウナが好きだ。大好きだ。いやもう愛しているでも足りない。単にサウナで汗を流すことが好きなのではない。サウナの醍醐味は、サウナで汗を流して、水風呂に浸かって、椅子に腰掛けて休憩している最中に訪れる恍惚感だ。

 

 最初は、心臓のドクドクという音が聞こえる。心臓が落ち着いてくると、濡れた皮膚を風が撫でる感覚や、お風呂のバイブラや人が湯に浸かる音、太陽光でテラテラ輝く水面に心地よさを感じるようになる。

 

 五感がフルに働いて、自分が剥き出しになっている感覚。同時に、意識は上に引っ張られるように遠くなっていく。頭は遠く、体は近い。体の内側から喜びがこみ上げ、頭の先から足先まで満ちていく。体がふわふわして、自分と自分以外の境界があやふやになる。目を瞑ると、曼荼羅図のような神聖なものが見える。全能感と、心の奥まで満たされるような幸福感。

 

「生まれてきてよかった……今日も世界に感謝したい……」どんなに辛いことがあっても、サウナに来れば満たされるし、だからこそ私はサウナを心底好きだ。愛している。この説明だけ読むとヤバい人のように感じるかもしれないが、サウナを知れば絶対共感できるので、どうか最後まで読み進めて欲しい。

 

 だからお願いブラウザは閉じないで! もうちょっとサウナの話を聞いてって! サウナっていいなって思うはずだから! ね!

 

 

 

 今でこそ日々サウナを想い、本場のサウナを求めてフィンランドまで足を運ぶほど熱愛しているが、サウナに目覚めるのには意外と時間がかかった。

 

 休職中、大学時代のサークルのO先輩に誘われたことがきっかけで銭湯好きになったのだが、そもそもO先輩はサウナ愛好者だった。銭湯に向かう道中、O先輩はそれとなくサウナの良さを伝えてくる。

 

「サウナと水風呂に繰り返し入ることで血流が良くなって、脳内麻薬が出て気持ちよくなる瞬間を“ととのう”って言うんだよ」

 

 そんなに言うんなら……と先輩がオススメするように、サウナ→水風呂→休憩の順番で入ってみる。

 

 んーーー……うーん……そこまで言うほど気持ちいいか? 

 

 確かに足はちょっとポカポカするけど、それよりあつ湯と水風呂を交互に入る方がよっぽど気持ちいい。

 

 湯上り、O先輩に正直に感想を伝えると少ししょんぼりした顔をする。すまんな。でもO先輩はちっともめげなかった。

 

「”サ道”って漫画を読めばサウナの良さがわかるから! Kindleにもあるから買ってみて(URLが送られてくる)」「アウフグースとロウリュの違いって知ってる? ロウリュは石に水をかけることで、アウフグースはサウナで風を煽ぐことなんだよ」などと豆知識を闇雲に浴びせかけてくる。

 

 だんだんとサウナでととのえないことに申し訳なさを感じるようになってきた。「私は永遠にサウナを楽しめない人間かもしれない……」と半ば諦めていたが、“ととのう”瞬間は突然訪れた。

 

 

 

 それは小杉湯のお風呂に入っているときのこと。小杉湯図解を描いて欲しいというDMをもらってから、すっかり定例化した小杉湯三代目とのミーティングの後、帰宅する前にお風呂をいただくことにした。

 

 入った瞬間、身体中がビリビリする44度のあつ湯に入った後、地下水かけ流しの水風呂にザブンと入る。小杉湯はこの温度差が絶妙で、“交互浴”の聖地とも言われている。

 

 小杉湯のお風呂に入るのは今日で3回目。いつもは休みなく入っているけど、サウナでも休憩が大事と言われたから、今日は水風呂から上がって、カランの前に座ってみる。心臓がちょっとドキドキしているけど、なんともない。なんならちょっと寒いぐらい。

 

 ああやっぱり“ととのう”は一生体験できないんだなーと、諦めて椅子から立ち上がり、41度のミルク風呂に肩まで浸かった。

 

 途端、視界がぐるりと回る。え、なに? 手の先がビリビリする。体がなんか、風が抜けるような、爽やかな変な感じ。

 

 ん? 喉がスースーする? なんか体が広がってる気がする。今、体ちゃんとある? 大丈夫? お湯に溶けてない? あれ、なんかすごい嬉しい気持ち。あっすごいこれめちゃくちゃ気持ちいいーーーー!!!! 

 

 ぐらぐらする視界のなか、浴槽の淵に必死にしがみつきながら唐突に理解した。

 

 これが”ととのう”!! 

 

 すげぇ、ととのうって、ヤッバイよ、ようやく分かったよ、O先輩!!!! 感動のあまりO先輩に速攻でLINEした。

 

「今までととのえなかったのは、休憩のとき体が冷えすぎていたからかもしれませんね。これでもう理解しました!」

 

 それ以来、O先輩とのサウナトークの熱量はどんどん加速していった。ちなみに、気持ちいいと言う単語が頻発するので(当然サウナのことを指している)彼女に勘違いされないように、私のLINEの名前を”サウナ学会”に変更していたという。ばかか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 “ととのう”を体験して以来、毎日のようにサウナに通った。

 

 最初は実家近くの「戸越銀座温泉」のサウナにトライ。小杉湯より水風呂が冷たくて最初は体がびっくりしたけど、二階の露天エリアの椅子に座ると、穏やかな“ととのう”感覚に包まれた。だんだんと近隣の銭湯では物足りなくなり、水風呂がシングル(水温が一桁台という意味)で有名な「ユーランド鶴見」や、えぐい熱さのオートロウリュ(自動でサウナストーンに水がかかる仕組みのストーブ)とキレキレの水風呂が人気の「草加健康センター」などサウナ好きが絶賛する遠方のサウナ施設にまで足を延ばした。サウナ愛好者がオススメするだけあって、いつもの倍は“ととのい”、休憩中は涎を垂らして薄ら笑いを浮かべていた。

 

 サウナに行けば行くほど、サウナへの情熱は加速しまくり、とうとう日本を飛び出した。

 

 

 

「サウナ」は、もともとフィンランドの言葉だ。フィンランドはサウナ文化が古くから根づいており、なんと各家庭にサウナが備わっている。日本人にとってのお風呂のような感覚だ。街中にも、ホテルにも、アパートにも、至るところにサウナがある。

 

 サウナ好きなら誰でも憧れる場所、それがフィンランドだ。

 

 サウナの熱量が沸騰しきっていた私は、友人を連れて真冬のフィンランドを訪れた。

 

 必ずやりたいと思っていたのはアヴァントに飛び込むこと。アヴァントとは、凍った湖に開けた穴。つまり、サウナでホカホカになった体で凍った湖に飛び込むという、旅行系バラエティ番組なんかでみる罰ゲームのやつだ。サウナ好きからしたらご褒美でしかないが。

 

 その夢を叶えるべく、海沿いのサウナ施設「LÖYLY」を訪れた。建築家が作ったオシャレなサウナとして有名だが、サウナ好きとしては電気サウナと薪サウナの2種類があることと、サウナ後そのまま海に飛び込めることが注目ポイントだ。

 

 早速、電気サウナに入ってみる。広々としていて、夜だからか薄暗く、皆お喋りに興じている。日本に比べ驚く程大きなサウナストーブで、あっという間に汗がしたたり落ちる。これで極寒の海にも入れるぞ! と思えるところまでしっかり体を温めてから、建物の外へ飛び出しアヴァントへ。すっかり日も暮れて外は真っ暗で、海は闇の塊のようになっている。

 

 怖い。ただでさえ氷の張った海に飛び込むのに勇気がいるのに、暗い海まじで怖い。いや何のためにきたんだ飛び込むぞオラッと海に続く階段から真冬の海へ飛び降りた。

 

 

 

 つめてぇ〜〜〜〜〜〜〜〜痛い、イタタタタタタ全身痛い! あっむり! 無理ぃ!!!!

 

 

 

 もうこれ以上はやめとけと体が警報を出しているのを感じる。大急ぎで階段の手すりをつかんで地上に上がるも、もはや手すりすら冷たくて痛い。

 

 

 

 アイタタタタ冷たい痛いあああ〜〜〜〜イタタタタタタあっ気持ち〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 〜〜〜〜〜!!!???

 

 

 

 全身が痛くて仕方ないと3歩ほど歩いた瞬間に謎の気持ちよさと、全能感に包まれる。え? もしかして私ってこの世界を作った創造主だった……? 脳がばかになってる。やばい、フィンランドに来てよかった〜!!!

 

 その後もアヴァントを楽しむも、一桁台の水温の海に入っていられるのは一瞬。もう体が限界だと友人たちと海から離れようとした時、フィンランド人のおっちゃんがす〜っと海に飛び込んでいった。

 

 ザブン。

 

 音がしてからなかなか上がってくる気配がない。見やると、なんといつのまにか氷の上に座っている。え、夢……? 寒さなんて全く感じないと言わんばかりに平然とした様子で休憩している。その後、何人ものフィンランドの若者がアヴァントに飛び込んで悠々と海を泳ぐと、何事もなかったように階段にあがっていった。やばい、フィンランド、やばい。いやフィンランド人もやばいわ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ところで、サウナ後には「あまみ」という赤いまだら模様が肌に浮き出てくることがある。サウナで血管が広がった直後に水風呂で血管が縮むことで、皮膚表面の血管が締まっているにもかかわらず、体の奥がまだ熱を持っていて血が集まって斑点模様のようになるそうだ。あまみが出るのは体の芯まで温まっている証拠で、あまみが出るサウナはいいサウナと言われている。

 

 サウナにはまりたての時はなかなか出なかったが、今では少しの刺激ですぐにあまみが出るようになってしまった。友人らとテントサウナイベントに行った時には、赤いキリンのようになり「あまみモンスター」という称号を主催者さんからもらった。嬉しくはない。

 

 

 

 易々とあまみが出てしまうはしたない体になってしまった冬のある日、ヒーターに足を当てていたらむず痒い感覚があり、ズボンをまくり上げると脛にあまみが出ていた。

 

 ええ……まさか、ととのっちゃった? ヒーターで足が温まってるのに頭は冷えているから、ととのっちゃったのか……? そんな境地にまで達したのか!! 

 

 謎の達成感を噛み締めてネットで調べたら、どうやら「火だこ」っていう火傷の一種でした。ばか。サウナばか。その時の傷がまだ完治しておらず、いまだに足に薄く火だこが残っているので、露出が多くなる夏の季節が心配だ。サウナを知ってとてつもなくIQが低くなったけど、以前に比べてずっと幸せなので、まだサウナに行ったことがない人はぜひ一度試して欲しい。ひとまずは、小杉湯のミルク風呂からのスタートでいかがでしょう?

(第5回へつづく)