第三章

二(承前)

「荷物は最小限に。九時課(午後三時)の鐘が鳴るまでにこの屋敷を出るんだ」

 荷造りをしている召使いに、トリスタンは明の商人の住まいを告げ、そこへ荷を運ぶよう指示した。

 沙羅は、トリスタンからアンドレアスを連れて町を出るように言われた。外では、避難する人々の帯が続いている。聴訴官のトリスタンは町に残るが、アンドレアスのためにも避難してほしいという彼の意向に従うことにした。

 荷造りをしながら、気もそぞろだった。心の中で何度も「落ち着いて、しっかりして」と自分に言い聞かせた。オランダは、ポルトガルと違って明の領土に港がない。だから、明や日本と交易しやすいように、ポルトガルが作った交易拠点であるマカオを奪おうとしている。

 これまでもオランダは、ポルトガル商船を拿捕だほしたり、マカオ沖で海上封鎖を行ってきたりした。危機感を抱いた元老院は、六年前イエズス会と協力して聖パウロ聖堂のすぐそばにある小高い丘に砲台の普請を始め、二年前には海に面したフランシスコ会の聖フランシスコ修道院内にも砲台を、今年はペンニャの丘の麓にアウグスチノ会が管理する砲台を造るなどして防御態勢を整えてきた。しかし、町への攻撃が現実におきるとは思いもしなかった。その上、トリスタンが聴訴官として戦闘の指揮を執ることになるとは。

 穏やかで滅多に声を荒らげることのない彼の戦う姿は想像できなかった。トリスタンは、時々ゴアやマラッカに行く。そこで、イスラム教徒や他の異教徒と戦うこともあったようだ。しかし、マカオにいて市政に携わっている時のほうが長く、戦の経験は豊富ではないはずだ。

 いいようのない不安に襲われた。彼の前で、動揺を隠すだけで精一杯だった。

 トリスタンは、明の商人の家に身を寄せていれば、よほどのことがない限り沙羅たちは安全だと言った。オランダは、明の民がポルトガル側について戦闘に加わることを恐れている。中立を保つか、逃亡してくれたほうがいいと考えるはずだからと説明した。

 壁に掛けられた肖像画を外し、トリスタンは、じっとそれを見つめた。一歳のアンドレアスを抱いた沙羅と自分を描いた絵画だ。

「沙羅、こんな時にそばにいてやれなくてすまない。アンドレアスのためにも、ポルトガル貴族たる者の振舞いを見せなければ。キミにも軽蔑されない生き方をしたい」

「軽蔑だなんて……あなたの無事だけがわたしの望みよ」

 心からそう思った。沙羅は、額を握るトリスタンの手に自分の手を重ねた。彼の手の温かさとそばにいる彼の息遣いを感じる。トリスタンが自分のそばからいなくなるのを漠然と想像するだけで、心細くなった。そばにいてくれるのが当たり前で、それは永遠だと思っていた。すぐそこにある危機に遭わなければ、そんな感情に気づかなかっただろう。

 一瞬のうちに記憶が蘇った。マカオで久しぶりに会ったトリスタンは、本国からきた洗練された服装と立ち振る舞いをする精悍な青年貴族で、その彼が自分のためにいろいろ動いてくれるのが信じられなかった。

 マヌエルと共にゴアへ送られそうになっていたところを、彼が密かに手を打って助けてくれ、マカオの港に連日通って捜してくれていた。その上、船底に閉じ込められ、薄汚れていたわたしを嫌な顔一つせず迎えてくれた。婚姻を延期し続けてカリバーリョの親族から横やりが入ってもわたしを責めず、庇ってくれた。シルバ商会の交易の仕事も好きなようにやってこられた。これまで、彼に甘えすぎていた。

「初めてキミに会ってから、もう二十五年になる。今でも覚えているよ。母君を失くしたばかりで、どれほど心細いだろう、泣いてばかりいるんじゃないかと想像していたが、キミは芯の強そうな目をした、大人びた少女だった。気弱になる父君を慰めようと、明るく振る舞っていて……やさしい娘だなと思った。あの時からわたしは、この娘と結婚するだろうと感じていた。ポルトガルに帰国しても、将来マカオで暮らすことになると信じて疑わなかったから、航海術や天文、法律といった学問や武芸にも励んだし、情報は少なかったが、明や日本のこともできるだけ知ろうと努めた。わたしの目の前には、いつも広大な海と沙羅がいる魅惑的なこの町があった」

 自分の手に重ねられた沙羅の手に、トリスタンはもう一方の手をそっと置いた。

「親同士の口約束で婚約し、シルバ家の資産目当てに結婚したと思っているだろう? きっかけはなんであれ、キミに会えてよかったと思っている。十代の頃から、わたしの人生にはキミがいた。こうして一緒の時を刻めて、わたしは幸せだった」

 心が震えた。彼が今にも消えてしまいそうで。彼の言葉は初めてのことばかりだった。

 トリスタンは、持っていた絵画を沙羅に預けた。離れていても家族三人でいたいという意味だと察した。

「龍王は、マヌエル殿の養子だったそうだね。先日、バレンテ司教代理から聞いたよ」

 突然、話題が龍之進になり、一瞬鼓動が激しく打った。

「結婚する前からずっと気になっていた。キミは交易の仕事を理由にして結婚を先延ばしにしていたが、他に理由があるのではないか……初めて龍王と会った時、キミと彼は海岸で一緒にいた。キミが何度も龍王と海岸で会っていたのも知っている。誰彼となく教えてくれるし、わたしも見かけたことがある。用件は仕事だとはわかっていても、いろいろ考えてしまってね。帰国を考えるようになったのは、兄のことばかりじゃないんだ」

 沙羅は、微かに息を呑んだ。トリスタンは、知っていた。わたしが仄かな想いを押し込めながら、龍之進と会っていたのを。そして、ずっと苦しめていた。

「司教代理は、二人が親しい理由を説明して、密通を仄めかした」

「それはないわ!」

 わたしに対して龍之進が家族のような親情を抱いていても、それ以上の想いがあるかどうか。もしあったとしても、届かない想いは時と共に消えていくもの。その想いを温め続けるには、あまりにも時が流れ過ぎた。それに、わたしは結婚したのだ。とっくに龍之進は……。

 思い通りにいかない人生を受け入れなければならない時もある。そう思って、わたしはトリスタンと結婚した。龍之進のことは、いずれ記憶から遠ざかっていくだろうと思っていた。でも、海を見たふとした瞬間に彼を思い出したりして、心から消え去ることはなかった。

「もちろん、司教代理の下劣な策だとすぐにわかったよ。わたしを嫉妬させて操ろうとしたのだろう。龍王をマヌエル殿と同じ目に遭わせることもできると言って、自分の側につくよう誘ってきた。ずいぶん侮られたものだ。そのような手に乗ると思われていたとは。あのお方のお考えは、卑怯で下品だ!」

 トリスタンは、鋭い語調で言った。

「キミは、司教代理と彼が対立していたことを龍王から聞いていたのではないか? 龍王を逮捕するために司教代理が作らせた偽文書には、マヌエル殿と過ごした彼の過去が記されていた。それを知って、キミはここを離れる決心をし、あれほどこだわっていた交易の仕事を捨ててまでポルトガル行きを了承したのだろう? 龍王に不利な証言をしなくても済むように」

 トリスタンは、じっと見つめてくる。非難というより悲哀を感じる目だった。

「すべては龍王のため。だとしたら、わたしはどうすればいいのだろうな」

 はっとし、その言葉が胸に刺さった。

「もしわたしとの婚約がなければ、キミは龍王の妻になっていたのだろうか。時々考えるんだ。わたしの存在はなんなのか。二人の間に入った邪魔者なのだろうか。だから、キミが笑うところを見るのがわたしの唯一の救いだった。そばにいてもいいと言ってもらっているような気がしてね。でも……そのうち、キミの微笑の奥に悲しみがあるのではないかと思うようになった。人は、本心を隠して笑うことができる。キミは、わたしといて幸せだったか?」

 即座に答えられなかった。唐突過ぎて、自分でもよくわからない。

「いつも不安だった。愛は真実を喜ぶ……教会法上離婚はできないが、この結婚がキミを不幸にしているのなら、キミから離れることも考えようと思う」

 思いもよらない衝撃的な告白に、いい言葉が見つからなかった。

「え……な、なにを言い出すの」

 俯いて足元を見た後、ひと息ついてトリスタンは言った。

「今日、明日で命を失うかもしれないと思うと、なにが大切なのか、なにを望んでいるのかが見える。キミには幸せになってほしい。心から笑っていてほしい。だから、もしわたしが帰ってこなかったらーー」

「そんなことを言わないで!」

 トリスタンをこれほど追い詰めていたとは思いもしなかった。涙が溢れそうになるのをぐっと堪えた。

「あなたは、わたしの支えよ。ずっとそうだった」

 トリスタンは、沙羅の両肩に手をのせて、言い含めるようにゆっくり言った。

「戦いのあと、今後のことをゆっくり話し合おう。でも、もしわたしがキミのもとへ戻らなかったら、その時はアンドレアスを頼む。キミは……キミを心から想ってくれる人の手を放してはいけない。心動く出会いはそうあるものではない。愛してくれる人を見つけるのはとても大変なことだ」

 翌、六月二十三日の夜。

 聖パウロ聖堂近くの小高い丘から、龍之進は南の海を眺めた。月と星が浮かぶ夜の幕を背景に、オランダ艦隊の小さな灯火が点在している。

 オランダ艦隊から、太鼓と笛、トランペットの威勢のいい音が聞こえる。ポルトガル人が言うには、オランダは勝てると見越してマカオを威嚇しようと盛大に楽器を鳴らしているのだという。そのため、負けじとマカオの町からも力強い太鼓の乱打や笛、シャルメラを吹き鳴らす音が響いていた。

 多聞は、丘の上にある聖パウロ砦の守備についていた。その砦に銃や剣、食料を運び入れるため、背後の急な坂を担ぎ手の男たちが上がっていく。藤九郎は戦いに備えて、寝ずに鍛冶屋に詰めて剣や刀、槍の刃を研いでいる。龍之進の槍の刃も藤九郎が仕立ててくれたものだ。

 いよいよ決戦だと龍之進は思った。オランダ人は舟に分乗し、夜陰に乗じてマカオに上陸しようとするはずだ。おそらく明日の夜明け前にも始まるだろう。

 今日は、日中から日が沈むまで、オランダ船とマカオの砦との大砲の打ち合いが続いた。町中に砲音が轟き、地が震え、海岸近くには砲弾を受けて壊れた家や倉庫がある。町に残った住人たちは海沿いを離れて内陸部に避難し、けが人や死者が出なかったのは幸いだった。

 半島に築かれた町マカオには、内陸部の北にある聖パウロ砦の他、突端のバル岬から南東に向かってのびる南湾沿岸部に三つの砦がある。オランダ船の攻撃は、最北の聖フランシスコ砦に集中し、三隻で砲弾を撃ってきた。

 明の官僚は、ポルトガルによるマカオの要塞化を警戒していたので、砦や城壁の普請がなかなか進まず、未完成のままの場所は多かった。

 おそらくオランダは、拿捕したポルトガル商船やマカオに出入りする明の商人から聞き出して、それを知っているだろう。今、マカオを襲ったのも偶然ではなく、広州への買い付けや大砲を北京に届けるためにマカオを離れた人が多いので、兵力は手薄だと考えて襲撃してきたに違いないと龍之進は思った。

 夜空を見上げると、無数の星が瞬き、吸い込まれそうなくらい美しかった。船上でも星空をよく見るが、今晩はやけに光り輝いてみえる。こんな切迫した時なのに、美しさを感じる。ふとおかしいと思った。

 交渉の揉め事や船上の戦いに時を費やすうち、星や花はありふれた風景の一部となり、感動もなにも感じなくなっていた。感情に飲まれて行動すると自分も周りの船員たちも不利になるので、努めて俯瞰から冷静にものごとを見るようになり、今ではすっかり身についてしまった。でも、限りある命を意識したほんとうの自分が日頃押し殺している生への感覚を蘇らせたのかもしれない。

 丘の麓から、日本人だろうか、日本の横笛の音が聞こえてきた。威勢のいいオランダやマカオの楽曲とは違い、心を揺さぶる物悲しい調べだ。

 思い返せば、日本にいた時から、いつも戦ってばかりだった。刀や槍を持たなくても、常になにかと戦っている。世を変えるような大それたことをしようとしているわけでもないのに、荒波に逆らって泳いでいるかのようにうまく前へ進めない。そういった人生を俺が選んでいるのか。潮の流れに身を委ねて、どこかへ行きつく人生もあったはずだ。人に逆らわず、世の仕組みを疑問に思わずに従っていれば、悩むこともなく、どこかへ流れつく……。

 でも、必死に足搔あがいて進んでいるつもりでも、俺の人生を時という無限な青史から見れば、流れに逆らうどころかただ漂っているだけなのかもしれない。ここにいるのも俺が選んでいるようで、時の流れに従って動かされただけなのかもしれない。

 夜空に瞬く無数の星は美しい。ひとつひとつは気にも留められなくても、多くが集まることで眩さが増す。俺は、そんなちっぽけな存在のうちのひとつで、光を失うその時までそこにいる役目を果たすために光を発し続けるのだろう。もしここにいるのが必然ならば、人々のために戦い、それで命を落としたとしても、それが俺の天命なのかもしれない。

 明日の今頃はどうなっているのか。生きてまたここに立てるのか、それとも……。

「そこにいるのは、龍王か」

 振り返ると、松明を持つ二人の兵の背後からトリスタンが現れた。トリスタンは、先に砦へ上がるよう兵らに命じた。彼は、戦いに備える人々を鼓舞するため、それぞれの砦を一晩中巡回するのだという。

「艦隊のようすを見ていたのか。今日のオランダの攻撃は、おそらくおとりだ。偵察隊を出して上陸する場所を探っていたのだろう。その偵察隊への目をそらすために、何時間も砦に向けて砲撃を続けた。だから、守りが手薄で上陸しやすく、執拗に攻撃を続けて近寄らせないようにした場所の近くがおそらく……」

 聖フランシスコ砦を指していた右手を、トリスタンは左の北の方角へずらした。

「カシーリャス海岸か。あそこは城壁もないし、人家も少ない。砂浜が続いていて、多くの舟を寄せやすい」

「そうだ。カシーリャス海岸の近くの丘の麓には泉がある。まず、その町の水源を制圧しようとするはずだ。オランダは多くの兵を上陸させるだろうから、カシーリャス海岸に伏兵を配備して、オランダ兵を待ち伏せする。彼らの中には、海岸の前線を突破して町に入る者も出てくるだろう。町に入って西へ進めば、ここまではすぐだ。彼らがこの上の聖パウロ砦を奪取しようとする前に、迎え撃つ部隊をこの砦の下に配備する」

 冷静に状況を読むトリスタンは頼もしかった。いつもの落ち着きが、余裕にさえ感じる。不安を見せず、砦に出向いて人々を励まそうとする彼に、龍之進は指揮官としてのあるべき姿を見た。

 聴訴官として不在の総司令官の代わりをどこまで務められるのかと思っていたが……これまで俺は、この人を侮っていたのかもしれない。

「では、俺は傭兵を率いて、カシーリャス海岸でオランダ兵を待ち伏せします」

「頼む。海岸には、ポルトガル将校が率いる百五十人の隊を配備する。龍王は、彼らと行動を共にしてくれ。もし、多くのオランダ兵が町に侵入するようなら、海岸は彼らに任せて内陸の部隊に合流してほしい」

「わかりました」

 一瞬、話が途切れた。二人のそばにあるかがり火の炎が弾けるような音を立てた。

「龍王と共に戦うことになるとはね」

 トリスタンがぽつりと口にした。ディアスは、体調に不安を覚え、後任にトリスタンをと望み、ゴアへ書簡を出していた。だが、ポルトガルに帰国する予定だからとトリスタンはディアスの依頼を断り続けたと話した。

 トリスタンが帰国を考えていたと知り、龍之進の胸に刺すような痛みが走った。そういえば、沙羅はマカオを離れるようなことを口にしたことがあった。あれは、ポルトガルへ行くという意味だったのだ。沙羅がいなくなってしまう。シルバ商会に行けば、会えると思っていた。海に出た時、マカオに必ず帰るという思いの源になっていたその沙羅が! 底知れない淋しさが胸を去来した。

「兄が跡継ぎを残さずに亡くなりそうでね。早く帰ってくるようにと前々から言われていた。でも、一週間前にゴアから文書が届いて……ディアス殿の体調は芳しくないから、荷は重いが、ここは聴訴官を引き受けることにした」

 沙羅と会えなくなることに動揺していたが、すべては戦いの後に考えようと自分に言い聞かせた。とにかく勝たなければ、その先はそもそもない。

「龍王は、子供の頃、沙羅とマヌエル殿の家で育ったとか? バレンテ司教代理がそう話していた」

「そうです。俺は、十歳の時にマヌエルの養子になったんです。その時の立会人がバレンテ司教代理でした」

「そうか。この戦いで、互いに生死は神のみぞ知るだから、伝えておく。たぶん……沙羅は、龍王を想っている。たぶん、ずっとだ」

 いきなりのことで、狼狽えた。「そんな、突然なにを言い出すんですか! 沙羅はあなたと結婚したしーー」

「それは家のためだ。わたしに特別な想いがあったわけではない。沙羅は、不自然なくらいわたしに龍王との過去を話さなかった。司教代理から聞いて、なんとなく納得したよ。隠したい想いがあるから、口にしないのだと。そうでなければ、普通に話せたはずだ」

 まじまじとトリスタンの彫りの深い横顔を見つめる。炎に照らされ、瞳に映る光が揺れている。

「龍王のほんとうの父は、侍だったそうだな。侍はよく知らないが、われわれ貴族の士官は前に出て戦う。わたしは、龍王のように刀や槍で戦えないかもしれないが、共に戦おうとする者たちを勇気づけることはできる。それが仕官たるわたしの責務だ」

 前面に出て戦えば、それだけ命を失う危険は高まる。それをトリスタンは覚悟しているから、沙羅のことを口にしたのか。もし自分が死んだら、もし俺が生き残っていたら? その時は、沙羅を頼むと。

 死を強く意識すると、これまで抱えていたものを惜しみなく次々と手放す人がいる。そして、最後に手元に残り、気にかけるのがその人が一番大切にするものだ。トリスタンにとって、それは沙羅なのだ。

「侍だった父は、俺が十歳の時、戦場で亡くなりました。生前、めったに死ぬなと教えられました。それは敵を勢いづかせるだけだから。トリスタン殿、あなたが生きていることがみんなの士気に繋がります」

「わかっている。今日オランダ人から文書が届いた。オランダが勝ったら、二十歳以上の男を皆殺しにした後、女を強姦するそうだ。まったく負けられない戦いだ!」

 戦はいつも残酷だ。沙羅やアンドレアスが恐怖や悲しみを味わわないように、なんとしても勝たなければ。日本でもそうだった。女や童はろくな抵抗すらできないまま殺されるか、捕らえられ、どこかへ売られてしまう。

「トリスタン殿、俺の願いを聞いてくれますか」

「この際だ。なんでも叶えよう」

「戦いが勝利に終わった暁には、不正な手段で買われた人々や不当に扱われている奴隷を解放してほしいんです。彼らもこの戦いに命をかけて戦う。その彼らに報いてほしい。たとえ戦いで命を落としても、人として弔ってほしい」

「わかった。念のために文書で残しておく。龍王、この戦い、勝つしかないぞ」

 トリスタンがこちらを向いて微笑んだので、龍之進は力強く頷いた。平静でいるからか、心強く感じる。トリスタンといると、負ける気がしなかった。

「勝ちましょう。そして、お互い生き残りましょう!」

(第25回へつづく)