広がる暗闇、鼻孔に忍び込むカビの臭い、クスクス笑う半グレ達の声、複数の犬の唸り声――粘着テープで目隠しされた譲二の胸を、不安と恐怖が支配した。
 とくに、犬の唸り声が気になった。
 内臓を震わせるような低く太い声から察するに、大型犬に違いない。
 譲二は立たされたまま、どこかに縛りつけられた。
「歌謡曲」で「東京倶楽部」の半グレに拉致された譲二は車に押し込まれ、降ろされたのが数分前のことだった。
 譲二の体内時計が正しければ、車に乗っていたのは十五分前後といったところだ。
 乗せられたエレベーターは下降したので、恐らくビルかマンションの地下に連れ込まれたのだろう。
 ホワイトブリーチしたロン毛、右の瞳だけ嵌められたブルーのコンタクトレンズ――工藤は、ほかの半グレ達とは次元の違う狂気のオーラを発していた。
 チョコレート屋の餌。
 譲二のことを、工藤はそう言った。
 自分を餌に、直美を誘き寄せるつもりに違いなかった。
 瞼に激痛――粘着テープを剥がされた。
 霞む視界が、次第に鮮明になってゆく……。
 コンクリート剥き出しの薄暗い空間は、かなりのスペースがあった。
 倉庫に使われているのか、壁際にはコンテナが積まれていた。
 電柱ほどの太さのコンクリート柱にロープで縛りつけられているので、譲二は身動きができなかった。
 視界に入る光景に、譲二は息を呑んだ。
 譲二の正面――四、五メートルの距離を置き、金銀坊主男、シャネルピアス男、顎髭男、柔道体型男、茶髪ロン毛男がそれぞれ、ブルドッグの四肢を長くしたような仔馬ほどの大きさの犬を連れていた。
 大型犬の体重は、ゆうに五十キロを超えていそうだった。
 五頭とも弛んだ口吻から太い犬歯を剥き出し、譲二を見据え低く唸っていた。
 五人の背後には、「歌謡曲」にはいなかった数十人の半グレ達が控えていた。 
 全員、スカルの刺繍の入った黒いパーカー――「東京倶楽部」のユニフォーム姿だった。
 五人との違いは、スカルがスパンコールではなく白糸で刺繍されていることだ。
 スパンコールのスカルは、幹部の証だと聞いたことがあった。
 金属バット、鉄パイプ、チェーン、木刀……平半グレ達の手には、様々な武器が握られていた。
 視覚から得た情報が、譲二の恐怖心に拍車をかけた。膝が、ガクガクと笑い始めた。
「おい、このちびパンチ、元ヤクザのくせにブルってやがる!」
 柔道体型男が譲二を嘲ると、室内に爆笑が沸き起こった。
「こんなショボくて女みてえな野郎が組員だったなんて、トーシン会もたいしたことねえな!」
顎髭男が譲二を指差し罵ると、ふたたび爆笑が室内の空気を震わせた。
「お、俺を……ど、どうするつもりだ?」
低い声でドスを利かせたつもりだが、声は裏返りしどろもどろになった。
「お、俺を……ど、どうするつもりだ?」
 金銀坊主男が譲二のモノマネをすると、みたびの爆笑が沸き起こった。
「このブサカワなワンコは、マスチフっていう犬なんだ」
 酷薄な笑みを片頬に貼りつけた工藤が、一際大きな犬……マスチフを連れて現れた。
 ほかのマスチフより一回り大きく、百キロ近くありそうだった。
「おっさん、怖いか?」
 工藤が、小馬鹿にしたような口調で訊ねてきた。
「お、おっさん!? お前と……いくつも変わらないだろう!」
 譲二は気息奄々の勇気に鞭を打ち、工藤を睨みつけた。
 相変わらず、両膝はガクガクと震えていた。
「変わるさ。俺は十八だから」
「十八!?」
 さらりと言う工藤の言葉に、譲二は素頓狂な声を上げた。
 てっきり、工藤は二十歳を超えていると思っていた。
 風格、オーラ、ビジュアル……どれを取っても未成年には見えなかった。
「ああ。こいつら幹部は、全員、俺より年上だ」
 工藤が、五人を振り返り言った。
 十八歳と聞き、改めて工藤という男の恐ろしさを感じた。
「こいつはローマ時代にライオンと闘っていた闘犬だから、おっさんは一咬みで腹を裂かれ、二咬みで内臓を引き摺り出され、三咬みで餌になる」
 マスチフの頭を撫でながら、工藤が冷え冷えとした口調で言った。
「お、俺も……『東神会』の元組員だ。こ、こんなことで、ビ、ビビると思ったら大間違いだ」
 譲二は、懸命に虚勢を張った。
 内心、小便を漏らしそうなほどに怖かった。
 だが、ここで工藤の言いなりになれば巻き餌にされてしまう。
 どんなことがあっても、直美を巻き込むわけにはいかない。
 これだけの人数を……しかもほとんどが武器を持ち凶暴な闘犬までいる敵を相手にしたら、さすがの直美も太刀打ちできないだろう。
 奴らにも、交渉の余地はあるはずだ。
 工藤達のターゲットは直美――暴力で直美を歌舞伎町の王の座から引き摺り下ろすつもりだ。
 直美が一介のチョコレート屋の店主に戻れば、工藤……いや、海東も事を荒立てる必要はないだろう。
 いまこそ、直美の一の舎弟としての腕の見せ所だ。
「てめえ、震えながらなにイキってんだ!?」 
 シャネルピアス男がヘラヘラと笑いつつ言った。
「ざ、雑魚は引っ込んでろ!」
譲二はうわずった声で、シャネルピアス男を一喝した。
「なんだとこら! キングオブ雑魚が、誰にイキってんだ! おお!」
「誰が前に出ていいと言った?」 
 譲二に詰め寄るシャネルピアス男の背中に、工藤が無表情に声をかけた。
「工藤君、この野郎、雑魚中の雑魚のくせして俺を雑魚呼ばわりして……」
「下がらないと殺すよ」
 工藤の氷のような瞳で見据えられたシャネルピアス男の表情が凍てついた。
「わかったよ……」
 言葉遣いこそタメ語だが、シャネルピアス男はライオンに獲物を譲るチーターのようにすごすごと下がった。
「東京倶楽部」では、工藤が百獣の王らしい。
 本物の百獣の王が現れたら……。
 考えただけで、ゾッとした。
 二頭の猛獣が顔を合わせる前に、工藤と交渉を始める必要があった。
「お前に……提案がある」
 譲二は唾液が干上がった喉から、掠れた声を絞り出した。
「なに? 聞いてあげるから、言ってみな」
 工藤が、臨戦態勢を取るマスチフの両耳の下を揉みながら譲二を促した。
「海東さんの目的は、堅気になった直さんが『東神会』のシノギにあれこれ口を出すのをやめさせることだろう? だったら、こんな大事にしなくても解決策はある」
「解決策ってなに?」
「俺の頼み事なら、直さんは耳を貸してくれる。だから、少しだけ時間をくれないか? 一週間……いや、五日でもいい」
 譲二は、工藤に懇願した。
「なんで?」
 工藤が訊ねた。
「だから、俺が直さんを説得するからだよ。海東さんだってお前らだって、できれば血を流さないで解決したいはずだ。そういうことだから、少し時間をくれ。頼む」
 譲二は、頭を下げた。
「なんで?」
 リプレイ映像を見ているように、工藤が訊ねた。
「揉め事なく解決するように、俺が直さんを説得して『東神会』のシノギにかかわらないように頼む時間がほしいと言ってるんだ」 
 譲二は、忍耐強く繰り返した。
 直美の前に、まずは工藤を説得しなければならない。
 もし、交換条件で工藤が靴先を舐めろというのなら従うつもりだった。
 とにかく、直美が絡む前に解放されたかった。
 いま頃、春江から自分が拉致されたことを聞かされた直美は血眼になって工藤を捜しているに違いない。
 もしかしたら、「東神会」に乗り込んでいる可能性もあった。
「海東さんからは、好きにやっていいと言われているよ。だから、好きなようにやる。俺は、チョコレート屋と揉めたいのさ。血を見るのが、三度の飯より好きなんだ」
 工藤は無表情に言うと、唇の片端を吊り上げた。
「しょ……正気で言ってるのか!? お前だって、直さんの伝説を聞いてるだろう!? 俺を餌に直さんを誘き寄せて袋叩きにするつもりだろうけど、お前らだって相当の犠牲者が出るぞ!? それでもいいのか!? なあ、悪いことは言わないから、ここは俺に任せてくれよ。必ず、直さんを説得するから」
「お前はチョコレート屋を説得できない」
 工藤が、にべもなく言った。
「聞いてなかったのか? 直さんは俺の頼みなら……」
「一時間後に場所を教えると、チョコレート屋にはさっき電話を入れたよ。だろ?」
 工藤がシャネルピアス男に視線を移した。
「ああ。野郎、獣みてえに唸りまくってたよ」
 シャネルピアス男が、おかしそうに言った。
 怖いもの知らずとは、彼らのことを言うのだろう。
 ライオンの鬣を毟り尻尾を踏むような真似をしていると、取り返しのつかない逆襲にあうことを半グレ達は知らない。
「直さんを怒らせたらどうなるか知らないから、そんな呑気にしていられるんだ。お前ら、皆殺しの目にあうぞ!? なあ、いまからでも間に合う。俺を解放して……」
「おっさん、人のことより自分のことを心配したほうがいいよ。チョコレート屋を一時間後に呼んだのは、面白いショーを撮るためだから」
 工藤が、意味深に言った。
「面白いショー!? そ、それは……どういう意味だ!?」
 譲二は、恐る恐る訊ねた。
 胸騒ぎと虫の知らせが、競い合うように譲二を不安にさせた。
「おい、この子達はデザートの時間だ」
 工藤が、五人の半グレ幹部のほうを振り返り言った。
「さあ、お前達、最高のスイーツをいま用意してやるから待ってろよ~」
 金銀坊主男が、譲二のベルトのバックルを外した。
「ちょ……ちょっと、なにをやってるんだ!?」
 不吉な予感が、譲二の胸に広がった。
 譲二は激しく身体を捩ったが、コンクリート柱にロープで縛られ動けなかった。
 譲二は、拘束されていない両足をバタつかせた。
 すかさず飛んできた柔道体型男とシャネルピアス男が、譲二の太腿にしがみついた。
「やめろっ……離せ!」
 抵抗も虚しく、譲二の身体はピンで留められた昆虫標本のように自由を失っていた。
「俺がカメラマンになるから」
 茶髪ロン毛男が、横にしたスマートフォンを両手で構えた。 
「な、な、なにをするつもりだ!?」
 譲二は、裏返った声で質問を重ねた。
 不吉な予感は、物凄い勢いで譲二の胸を闇色に染めてゆく。
「ジャジャジャジャーン! なんだこれ!? ちっちゃ!」
 金銀坊主男がパンツとブリーフを一気に下ろし、露になった譲二の性器を指差し嘲笑った。
「しかも、包茎じゃん!」
 左足を拘束しているシャネルピアス男が大声を張り上げた。
「五センチの包茎ちんぽなんて、お前は小学生か!?」
 右足を拘束している柔道体型男が愚弄した。
 恥辱の嵐――だが、悔しさよりも、恐怖心が勝っていた。
 これからどんな仕打ちを受けるのかと考えただけで、小さいと馬鹿にされた性器がさらに縮み上がった。
 ニヤニヤと笑いながら歩み寄ってくる顎髭男の右手には、なにかのチューブが握られていた。
「お待たせしました~。ご注文頂きました練乳でーす!」
 顎髭男が悪乗りしながらチューブを絞り、譲二の陰茎と陰嚢に練乳をかけた。
「なっ……」
 譲二は絶句した。
 まさか、デザートとは……。
 脳裏に浮かぶ悍ましい光景――譲二の両腕を鳥肌が埋め尽くした。
 譲二の危惧を証明するように、六頭のマスチフが鼻を蠢かし涎を垂らし始めた。
 六頭とも舌を出して浅く速いリズムの息遣いになっており、いまにも飛びかからんばかりに鎖を引っ張っていた。
「ゴー!」
 工藤の合図に、解き放たれた五頭のマスチフが譲二の股間に群がり、我先に陰茎や陰嚢を舐め始めた。
 分厚くザラついた舌の感触に、譲二の鳥肌は両腕から全身の表皮に広がった。
 ピチャピチャという湿った音が、地下室に反響した。
「ひっ……いやっ……やめ……ひぃっ……」
 譲二はきつく眼を閉じ、声にならない声を上げた。
「おいおいおい、ちびパンチ、お前、感じてるんじゃねえだろうな!?」
「色っぽい声で喘いでるね~」
「勃起するんじゃねえぞ!」
 金銀坊主男、茶髪ロン毛男、シャネルピアス男が卑しく笑いながら下劣な野次を飛ばした。
「いい画だね~。マスチフちゃん、ちょっと咬んでみようか?」
スマートフォンを構えてムービー撮影している茶髪ロン毛男の悪乗りに、譲二の背筋が凍てついた。
 たとえ甘噛みでも、こんな大型犬に歯を立てられたら致命傷になってしまう。
「こ、こんなことして……な、なにになるんだ……?」
マスチフを見ないよう顔を背けたまま、譲二は恐怖にうわずる声で訊ねた。
「まずチョコレート屋のスマホに送って、それからSNSにUPする」
 あっさり答える工藤に、譲二の脳内が漆黒に染まった。
「う……嘘だろ……そんなこと……やめてくれ! なんでも協力するから……頼む……お願いだ!」
 譲二は弾かれたように工藤に顔を向け、頼み込んだ。
 罪悪感の悲鳴を無視した。
 白旗を上げたと見せかけ窮地を脱する――なりふり構ってはいられなかった。
 こんな動画を直美が見たら、正気を失ってしまう。
 直美は常軌を逸してるように見えるが、常に冷静さを保っている。
 数々の修羅場を潜り抜け命を落としていないのは、直美の桁外れの戦闘力と超人的な体力によるものだ。
 だが、それだけではない。
 どんなに喧嘩が強くても強靭な肉体を誇っても、急所をナイフで刺され銃弾で頭を撃ち抜かれたら死んでしまう。
 直美は超人的であっても、超人ではない。
 致命傷を負わずに戦場から生還できるのは直美に野性の勘――危機回避能力があるからだ。
 修羅の形相で暴れ回る直美の頭は、見た目と違い冷静だ。
 しかし、この動画を見たら直美の理性が吹き飛んでしまう可能性があった。
 冷静な判断力を失えば、それだけ隙ができる。
 工藤の狙いは、まさにそこに違いなかった。
「ストップ!」
 工藤が命じると、五人の半グレ幹部が各々のマスチフを譲二から引き離した。
 譲二の全身の筋肉が弛緩した。
「なんでも協力するっていうのは本当?」
 工藤が、無表情に訊ねてきた。
「あ、ああ、本当だ。今後、海東さんのシノギの邪魔にならないように、俺が直さんを……」
「じゃあ、アンソニーの相手をしてくれないかな?」
 譲二を遮り、工藤が言った。
「アンソニー?」
「彼のことさ」
 工藤が巨大マスチフ――アンソニーの首筋を叩いた。
「相手って……なにを?」
「アンソニーは発情期でね。なかなか交尾の相手がみつからなくて、欲求不満なんだよ」
 片側の口角を吊り上げる工藤に、譲二の脳みそが凍てついた。
「じょ、冗談はやめてくれよ」
 譲二は、引き攣り笑いを浮かべつつ言った。
 質の悪い冗談にしたかった――いや、冗談に決まっている。
「本気さ。マスチフのペニスは勃起したら三十センチ以上になるから、奥まで届いて気持ちいいと思うよ」
 工藤が、淡々とした口調で言った。
 譲二の頭から血の気が引き、心臓がバクバクと音を立て始めた。
 あまりの恐怖に、なにも考えられなかった。
 獣姦……。
 アブノーマルな映画の中だけの世界だと思っていた。
 マスチフのペニスに肛門を貫かれる自分……。
 想像しただけで、失神してしまいそうだった。
「なあ……嘘だろ? こ、こんなことして、なにになるんだよ? もう……ここまでにしよう。お前らだって、なんにも得しないじゃないか。考えてみれば、海東さんが怒るのも無理はないのかもしれない。堅気の直さんが、シマを仕切っているわけだからな。直さんのことに腹を立ててるなら、俺が詫び金を作る……だから、それで手打ちにしてくれ。三十万……いや、五十万でどうだ?」
 譲二は、懸命に工藤の翻意を促した――全力で工藤に媚びた。
 詫び金で解決するなど、直美が知ったら激怒するに違いない。
 譲二も、直美が悪いなどと本気で思っているわけではない。
 それに五十万円は譲二にとって大金で、借り集めなければ用意できない額だ。
 だが、そうでも言わなければ譲二も直美も地獄行きだから背に腹は代えられない。
「金はいらないし得もしなくていい。おっさんがアンソニーにヤられている動画をチョコレート屋に送って、怒り狂う顔をみたいだけだから」  
 涼しい顔で言う工藤に、譲二の視界が色を失った。
「おい、ロープを解いておっさんのケツをこっちに向けさせてくれ」
 工藤が、柔道体型男に命じた。
「お、おい……やめ……やめてくれ!」
 譲二は、ロープを解き始めた柔道体型男に叫んだ。
 あっという間にロープが解かれ、譲二は丸太のような柔道体型男の腕に抱えられ向きを変えられた――コンクリート柱と抱擁する格好で、ふたたびロープを巻かれた。
「頼む! やめてくれ! やめてくれーっ」
 譲二は振り返り、工藤に涙声で訴えた。
「アンソニー、あのケツに突っ込んでいいぞ」
 工藤がアンソニーに語りかけ、譲二に歩み寄ってきた。
「おいっ、おいっ、頼むからーっ、頼むからぁーっ!」
 涙に霞む視界に、血走った眼のアンソニーの顔が迫ってくる。
 譲二の両肩に、太く重い前足が置かれた。
 耳元で聞こえる荒い息遣いが、譲二のパニックに拍車をかけた。
 譲二は視線を下に向けた。
 だらりと垂れた特大のサラミさながらの、赤黒く生々しいアンソニーの性器。
「うわぁぁぁーっ!」
 譲二の絶叫が湿った空気を切り裂いた。
「アンソニーのペニスは柔らかいから、ケツに導いてあげな。お前は、おっさんのケツを広げるんだ」
 工藤が金銀坊主男と茶髪ロン毛男に命じた。
「え……こいつのちんこを触るの?」
 金銀坊主男が、露骨に嫌な顔をした。
「こいつじゃなくてアンソニーだ。お前は、俺に触れっていうのか?」
 工藤が、背筋が凍りそうな冷たい瞳で金銀坊主男を見据えた。
「と、とんでもない。工藤君に、そんなことやらせられるわけないじゃん。俺がやるよ」
 慌てて金銀坊主男がアンソニーのペニスに手を添えると、茶髪ロン毛男が譲二の臀部を鷲掴みにして左右に広げた。
「うわっ、わぁーっ、嫌だっ、やめろっ、ちょちょちょっ……やめっ、やめろっ、やめてくれー!」
 譲二は激しく尻を振り、声帯が潰れるのではないかと思うほど絶叫した。
「動いて入れられねえから、押さえてくれ!」
 アンソニーのペニスを握った金銀坊主男に頼まれた柔道体型男が、譲二の腰を物凄い力でコンクリート柱に押しつけた。
「やめろってぇー! やめろってぇー! おぅあ! あばわっ! どぅあー!」
 自らの絶叫で、鼓膜が破れそうだった。
 叫び過ぎて酸素が奪われた頭がクラクラし、眩暈に襲われた。
「ちびパンチのバージン、いっただっきまーす!」
 誰かの冷やかす声に続き、生温くぬるりとしたものが尻に触れた。
 限界を超えた恐怖――自己防衛本能が、譲二の意識を遠ざけようとした。
「早く突っ込んじゃえよ!」
「根元までずっぽりいけ!」
「元ヤクザさん、イクときは教えろよ!」
 半グレ達の囃し立てる声が、鼓膜からフェードアウトしてゆく……。
 金属を破壊するような物凄い衝撃音が、譲二の意識を引き戻した。
「譲二ちゃん、ワンコとやるくらいなら春江ママを抱いてやれや」
 聞き覚えのある声――譲二は弾かれたように振り返った。

 

(第10回へつづく)