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「好きだったら誰でもできる、それが今の怪談業界のいいところ」(吉田)「そういえば、僕もあんまり考えずに本出しちゃったな(笑)」(青柳)──ミステリ作家・青柳碧人が学生時代から蒐集してきた「本当にあった怖い/不思議な話」49篇をまとめた実話怪談短篇集『怪談青柳屋敷』刊行記念対談の前篇は、青柳氏が実話怪談を書くに至った経緯と、お二人の意外な共通点について語る。

取材・文=編集部 撮影=宮本賢一

 

■吉田さんの「伝説の怪談」がきっかけで怪談を執筆?

 

──「刊行記念対談するなら、ぜひ吉田悠軌さんを」という青柳さんの熱烈なオファーで実現したんですが、まずはその辺の経緯から。

 

青柳碧人(以下=青柳):実は僕、ずっと吉田さんの怪談を追っかけてまして。今日も「吉田さんに訊きたい10の事」ってメモをもってきたぐらいなんです。7、8年前に一度、浅草で行われていた怪談ライブにはお邪魔したことがあるんですが、お会いするのは初めてで……。

 

吉田悠軌(以下=吉田):それはそれは、お声がけありがとうございます。浅草というとフランス座の?

 

青柳:そうそう。そもそもはもう十数年前ですかね、「稲川淳二の怪談グランプリ(注1)」という番組で吉田さんの怪談を最初に見て……「くるりんぱ」という話なんですが。

 

吉田:あぁ、史上最低得点の(笑)。

 

青柳:ええッ、そうなんですか!? 僕はあれがいちばん吉田さんの怪談で印象的なんですが。

 

吉田:そう言って下さる方も多いんですけどね。いまだに誰も抜けない史上最低の……。

 

青柳:いやいやいや、あの話が、僕が怪談というカルチャーをもう一回追いかけてみようと思ったきっかけなんですよ。もう強烈な印象で。「怪談ってこういうのでもいいんだ」って。何か文学的ですよね、あの話って。

 

青柳碧人氏

 

注1/怪談業界の大御所・稲川淳二を審査委員長に迎え、2009年から始まった関西テレビ主催の怪談コンテスト。吉田さんをはじめ現在の怪談業界のスター選手を数々輩出。

 

■二人の「怪談原体験」とは?

 

──そもそもお二人が怪談に興味をもつきっかけってなんだったんですか?

 

青柳:僕の場合は「学校の怪談」シリーズ(注2)ですね。常光徹さんの。

 

吉田:青柳さん私と同い年ですよね? だとしたら流行ったのってちょっと下の世代ですよね。

 

青柳:あ、そうです。弟が買ってきたのを僕がハマって読んでいたんです。

 

吉田:あれって子供向けという体裁だけど、学者さんたちがきちっと研究したり取材したりしたものなので、大人が読んでも読みごたえありましたよね。

 

青柳:ビジュアルもショッキングだったし、基本的な「都市伝説」はあれで知ったかなぁ。

 

吉田:「てけてけ」とか、いまでは定番の都市伝説もあれで広まったんですよね。ただ、僕が子供の頃はあんまりハマらなかったというか、存在も知らなかったし……。

 

青柳:あれ、そうなんですか!?

 

吉田:怪談そのものに興味がなかったというか、もちろん、テレビで心霊番組や稲川淳二の番組をやっていれば観てましたけど。

 

吉田悠軌氏

 

青柳:いや、それじゅうぶん怪談好きでしょ(笑)。稲川淳二出てたらテレビ点けるって。

 

注2/1990年から講談社KK文庫で刊行された児童向けの小説シリーズ。著者の常光徹は国立歴史民俗博物館教授も務めた民俗学者でもある。

 

■じつは意外な共通点が次々と発覚

 

──お二人は同じ時期に同じ早稲田大学に在籍されてましたが、学生時代はどんな感じだったんですか?

 

青柳:あの頃って大学に禁止されて学祭がなかったんですが、2年生の時にクイズ研究会だけが独自にイベントをやっていて、それで感動して入会してずーっとやってたんです。吉田さんが学生時代に熱を注いだものってなんですか?

 

吉田:あ~、大学では映画の勉強もしていたし、映画サークルに入っていたのでドキュメンタリー映画を作ったり、学内での映画祭の手伝いもちょこちょこやってたんですが、当時は怪談はぜんぜん興味なかったですね。

 

青柳:あ、そうなんですか……そのあと、就職活動があまりうまくいかなかったって……。

 

吉田:ええ(苦笑)、舐めてたわけじゃないし、むしろ人生でいちばん努力した2年間だったんですけどね。これはヤバいなってことになり、なんか、怪談を始めたってわけで……。

 

青柳:実は僕も同じようなもんで。吉田さんは就職活動失敗したってよく書いてますけど、僕は何もやりたいことがなくて、就職活動しないでフラフラしていて。いったん大学院も入ったけど、面白くなくて辞めて、塾講師を始めて……。で、その頃にさっき話した吉田さんの「くるりんぱ」に出会ったということなんですよ。

 

■怪談業界はいまが“青春期”で昔の小説業界?

 

──いまや怪談業界のオーソリティーともいえる吉田さんが「なんとなく怪談を始めた」というのも意外ですね。

 

吉田:いまはどうかわからないですけど、ほかに何もできない人間の吹き溜まりが怪談だと思ってるし、むしろ、そうあるべきだと思っているんです。

 

青柳:え~、そうですか!? でも、誰にでもできるものではないじゃないですか、怪談って。

 

吉田:誰にでもできるもんですよ(笑)。いまいちばん誰にでもできるもの。だからいま人気なんじゃないですか。もちろん、その中で実力の差はありますけど。怪談自体は、好きだったら明日からでもできるし、私みたいに好きじゃなくてもできる(笑)。

 

青柳:確かに、僕もあんまり考えずに本出しちゃったしなぁ(苦笑)。

 

吉田:それが怪談業界のいいところだと思うんですよ。昔は小説だってそういうものだったはずですよね。田山花袋の『蒲団』とか読めばわかりますけど、あんな風に自意識過剰な若者がこぞって手を出すものだったはずですし。でも、そういう時がいちばんジャンルが活気があるというか、青春期のジャンルというか。で、結局そういうものがいちばん面白いし、やりがいもある。

 

〈後編〉に続きます。

 

【あらすじ】
『むかしむかしあるところに、死体がありました』『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う』などで人気のミステリー作家、青柳碧人。じつは怪談好きだったのです。これまでひそかに取材採集した実話怪談の数々。文字どおり家にまつわる怪談から自ら体験した怪異、出版業界で耳にした恐怖体験など一挙49篇を収録。

 

青柳碧人(あおやぎ・あいと) プロフィール
1980年千葉県生まれ。早稲田大学卒業。2009年『浜村渚の計算ノート』で第3回「講談社Birth」小説部門を受賞してデビュー。19年刊行の『むかしむかしあるところに、死体がありました。』は多くの年間ミステリーランキングに入り、本屋大賞にノミネート。『赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。』は23年9月にNETFLIXで映画公開が決定している。「猫河原家の人びと」シリーズをはじめ多数のシリーズ作品のほか、『名探偵の生まれる夜 大正謎百景』、『クワトロ・フォルマッジ』など著書多数。

 

吉田悠軌(よしだ・ゆうき) プロフィール
1980年東京都生まれ。怪談作家、怪談研究家。早稲田大学卒業後、ライター・編集活動を開始。怪談サークル「とうもろこしの会」の会長をつとめ、怪談の蒐集と語り、さらにはオカルト全般の研究をライフワークとしている。伝説的なオカルトスポット探訪マガジン『怪処』の刊行や、「クレイジージャーニー」(TBS)では日本の禁足地を案内するほか、月刊ムーでの連載やYouTubeなど各メディアで活動中。著作に『中央線怪談』、『現代怪談考』、『一生忘れない怖い話の語り方』、『禁足地巡礼』、『一行怪談』、『煙鳥怪奇録』(共著)など多数。