就職活動における究極の心理戦を描いた『六人の嘘つきな大学生』でブレイクした浅倉秋成が、次なるテーマに選んだのは“SNSでの炎上”。ある日突然「女子大生殺害犯」に仕立てられた男の決死の逃亡劇を描く。“明日は我が身”のリアルな展開と、ラストで明かされる驚くべき真相に引き込まれること間違いなしの傑作だ。

「小説推理」2021年7月号に掲載された書評家・細谷正充さんのレビューと、書籍帯で『俺ではない炎上』の読みどころをご紹介する。

 

なりすましたヤツは、誰だ!?  ある日突然、SNSで「女子大生殺害犯」に仕立てられた男。 日本中が敵になり、必死の逃亡を続ける男が辿り着いた驚くべき真相は!? 『六人の嘘つきな大学生』で大注目の著者が放つ、炎上逃亡ミステリー!

 

外回り中の大帝ハウス大善支社営業部長・山縣泰介のもとに、支社長から緊急の電話が入った。「とにかくすぐ戻れ。絶対に裏口から」どうやら泰介が「女子大生殺害犯」であるとされて、すでに実名、写真付きでネットに素性が晒され、大炎上しているらしい。Twitterで犯行を自慢していたそうだが、そのアカウントが泰介のものであると誤認されてしまったようだ。誤解はすぐに解けるだろうと楽観視していたが、当該アカウントは実に巧妙で、見れば見るほど泰介のものとしか思えず、誰一人として無実を信じてくれない。会社も、友人も、家族でさえも……。ほんの数時間にして日本中の人間が敵になり、誰も彼もに追いかけられる中、泰介は必死の逃亡を続ける。

 

■『俺ではない炎上』浅倉秋成  /細谷正充:評

 

平凡な会社員の山縣泰介が、SNSで女子大生殺害犯に仕立てられた。ネットの炎上。暴走するユーチューバー。浅倉秋成が描く、現代の冤罪はリアルだ。

 

“冤罪の恐怖”という言葉を耳にしたとき、多くの人は警察のミスや裁判での不当判決を連想するだろう。しかし現代の冤罪は、別の場所でも発生する。SNSを中心としたインターネット上でも、根拠不明な噂を発端にして、冤罪事件が起こることがあるのだ。浅倉秋成の新刊は、そうした現代の冤罪の恐怖を描いた意欲作である。

 大帝ハウス大善支社営業部長の山縣泰介は、外回りの仕事中、会社に呼び戻される。女性を殺したらしき、犯人のツイートが拡散。そのアカウントが泰介のものだと誤解され、実名と写真付きでネットに素性が晒されていたのだ。当初はすぐに誤解が解けると楽観視していた泰介だが、ネットの炎上により状況が悪化。調子に乗ったユーチューバーが、泰介を捕まえようとし、間違って別人に重傷を負わせる事件まで発生した。命の危険すら感じた泰介は、訳も分からないまま逃亡する。そして、自身の手で真犯人を捕まえようとするのだった。

 50代の泰介は、ネットのことなどよく分からない、いささか古臭い人間だ。生真面目で、四角四面な性格。妻と娘がおり、社会的には成功している方である。だが、ネットの炎上により、一瞬にして日常が崩壊する。現代では誰にでも起こり得る冤罪であり、それだけに追い詰められていく泰介の姿に強い恐怖を感じた。

 また、真犯人を捜そうとする泰介の行動が、結果的に自分探しになる点も面白い。善良に生きてきたつもりの泰介だが、周囲の人には、どのように思われていたのか。普通ならば問題にならない主人公の歪みが、非日常の中で露わになっていくのである。

 さらに、泰介の妻や娘、炎上の切っかけとなったツイートの拡散をした大学生、事件を担当する刑事などのパートが挿入され、ストーリーが進行。最初から泰介を犯人と決めつけ、相棒の疑問を封じる刑事の姿などから、ネットの炎上が現実に与える影響の大きさが伝わってきた。事件に対するSNSの書き込みも、いかにもそれらしく、物語を盛り上げている。

 そして夢中になって読んでいたら、終盤で予想外の仕掛けが炸裂。それか、その手を使うのか! 完全にやられた。あわててポイントとなる部分を読み返すと、注意深く書きながら、伏線を張っていることが分かった。だから意外な犯人の正体にも説得力がある。現代的なテーマと、ミステリーのサプライズを融合させた秀作なのだ。
 

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https://colorful.futabanet.jp/articles/-/1359

▼『俺ではない炎上』の魅力をギュギュっとご紹介!
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▼『俺ではない炎上』著者インタビューはこちら
https://colorful.futabanet.jp/articles/-/1389