後ろ手に手錠を嵌められ、アイマスクで視界を塞がれた譲二の動転する脳内に様々な考えが過った。
 なぜ林が? 保育士が下手を打ったのか? それとも裏切ったのか?
 思考を止めた。
 いずれにしても、ふたたび拉致されてしまった。海東から直美を救うつもりが、これでは逆効果だ。
 車に連れ込まれて十分近く経っていた。
 海東のところに連れて行くつもりなのか? 自分を人質にして直美を誘き寄せるつもりに違いない。
 車のスピードが落ちた。目的地が近いのだろう。
 ほどなくすると車が停まり、スライドドアが開く音がした。
「降りろ」
 男に背中を突かれ、譲二は車を降りた。恐怖に鼓動が早鐘を打ち、膝が震えた。
 直美の足を引っ張っているというのに、臆病な性格を譲二は呪った。 
 反響する足音から察して、建物内に入ったことがわかった。 
「階段を下りるぞ」
 男の不愛想な声――譲二は慎重に足を踏み出した。どうやら地下室に連れて行かれるようだ。
「止まれ」
 男が命じた。
「連れてきました」
 ノックの音に続き、林の声が聞こえた。
「歩け」
 林に命じられ、数歩歩くと、物凄い力で上から肩を押された。
 譲二が腰を下ろすと、弾力のある感触が臀部に広がった。
 緊張と恐怖に口内が干上がった。
 奇跡は二度起こらない。今度こそ、確実に海東に殺されてしまう……。
「アイマスクを取ってやれ」
 林が命じると闇が取り払われた。
 蛍光灯の眩しさに耐えきれず、譲二はきつく眼を閉じた。
 数秒の間を置き、譲二は眼を開けた。
 ダウンライトの琥珀色の空間が視界に広がった。
 コンクリート壁に囲まれた殺風景な地下室を想像していたが、目の前に広がる部屋はベージュのカーペットが敷き詰められホテルの一室のようだった。
 譲二は白革の高価そうな一人掛けソファに座らされていた。
 正面のソファには足を組んだ林がいた。
 譲二は首を巡らせた。
 室内には林以外に、譲二を車に連れ込んだ二人の男がいるだけだった。
「お、俺を……どうするつもりだ?」
 掠れた声で、譲二は林に訊ねた。
「俺からはなにも言えない」
 林がにべもなく言った。
「か、海東に指示されたのか?」
 平常心を掻き集め、譲二は質問を重ねた。
「俺の口から言ったら殺される。もう少しでわかるから待ってろ」
「やっぱり海東か……」
 絶望の淵に突き落とされる譲二の耳に、壁を叩くような音が聞こえた。
 隣室の物音なのか?
 ドンドンドンという衝撃音が断続的に続いていた。
「あの音は?」
 譲二が訊ねると、林が苦々しい顔になった。
 耳を澄ますと女性の啜り泣きのような声が聞こえた。
 まさか隣室に女を監禁して暴行を……。 
「もしかして海東は隣の部屋に……」
 譲二の声を遮るように、トイレのドアが開いた。
「えっ……」
 現れた男を見て、譲二は我が目を疑った。
「もうちょっと待ってろや」
 下半身裸の色黒のギャルを駅弁ファックスタイルで抱きかかえる大男――直美が譲二に言うと、激しく腰を動かし始めた。
 衝撃音の正体がわかった。
「どうして……」
 譲二の頭の中に疑問符が飛び交った。
 ロングの茶髪を激しく振り乱すギャルの喘ぎ声が次第に激しくなった。
「どうして直さんがここにいるんですか!?」
 譲二は直美の広い背中に疑問をぶつけた。
「あーもう! 気が散ってイケねえじゃねえか!」
 直美が癇癪を起こし、ギャルを譲二の膝の上に放り投げた。
「うわっ……」
 驚いた譲二はギャルを床に転がした。
「痛っ……。なにすんのよ!」
 ギャルが尻もちをついたまま譲二の股間を蹴りつけた。
「あうっ……」
 譲二の額にびっしりと脂汗が浮かんだ。
「連れてくんのが早えんだよっ! 車で待たせるとかなんとか、ちっとは場の空気を読めや!」
 直美が林の頭を平手ではたき、性器を露出したままどっかりとソファに座った。
「すみません。二時間以上前からやってたので、もう大丈夫かと……」
「馬鹿野郎! おめえらの早漏ちんぽとはわけが違うんだよっ、わけが! 俺は最低でも三時間は……」
「そんなことより、俺の質問に答えてください!」
 譲二は直美を遮った。
 林に拉致されたのに、どうして直美がいるのだ?
 直美が林に拉致を命じたというのか?
 そもそも林は海東の舎弟で直美の敵のはずだ。
 譲二の脳内で疑問が増殖した。
「あ? 質問ってなんだっけ!?」
「どうして直さんが海東の舎弟と手を組んでるんですか!?」
「なんだ、そんなことか。こいつが寝返って俺のとこにきたから使ってやってるだけだ」
 直美が興味なさそうに言った。
「『東神会』の若頭補佐が、どうして直さんに寝返るんですか!?」
 譲二は率直な疑問をぶつけた。
「海東の包茎野郎に嫌気がさしたんだとよ」
 直美が薄笑いを浮かべた。
「この男が海東を裏切るはずがありませんよっ。これは罠に決まってます!」
 譲二は断言した。
「ったく、うるせえ奴だな、なんで俺に寝返ったか説明しろ」
 直美が面倒臭そうに林に命じた。
「シャブだよ。明後日、シャブのでかい取り引きがあることをお前も知ってるよな? だから、シャブの隠し場所の託児所に行ったんだろう?」
 林が譲二を見据えた。
「あ、はぁ、まあ……」
 譲二はバツが悪そうな顔で頷いた。
「でも、それがどうして寝返ることになるんだよ?」
 譲二は平気な振りをしているが、極道世界では遥かに格上の林にタメ語を使うたびに内心はビクビクしていた。
「俺はシャブは好きじゃねえ。もともと、組は薬物御法度だしな」
 林が吐き捨てた。
「いままで、さんざん売ってきたじゃないか!?」
 野崎が若頭だった頃より組の懐具合が潤うようになったのは、海東が違法薬物を密売しているからだ。
「若頭の命令だから従うほかなかった。組長もうっすら気づいていたが、見て見ぬ振りをしていた。若頭は『東京倶楽部』のガキどもを使って高校生にまでセックスドラッグや大麻を売り始めた。 何度か若頭を諫めたよ。半グレ使ってドラッグをガキに広めたら警察サツも黙ってないからやめてほしいと。若頭は聞く耳を持たなかった。それどころか、意見を言った俺に見せしめのために半グレのリーダー……工藤に権限を与えるようになっちまった」
 口惜しげに歯ぎしりする林を見ていると演技とは思えなかった。
「かっこつけてねえで本当のこと言えや。セックスドラッグがどうこう言ってるが、ようするに海東が工藤を信頼しておめえに冷や飯を食わせたのが気に入らねえんだろう?」
 直美がニヤニヤしながら口を挟んだ。
「……それもあります」
 林が絞り出すような声で言った。
「あれだけかわいがっていた工藤を用なしとなれば使用済みのコンドームみてえにポイ捨てする。そんな海東に危険を感じたんだろうが? お? 明日は我が身だってな」
 直美の言葉に反論することなく、林はふたたび歯ぎしりした。
「っつーことだ譲二。こいつの動機は嫉妬と保身だが、寝返ったのは嘘じゃねえ」
 直美が譲二にニヤついた顔を向けた。
「じゃあどうして、託児所にきたんだよ? 海東の命令で覚醒剤のチェックをしにきたんじゃないのか!?」
 譲二は林を問い詰めた。
「俺の命令だ。海東をぶっ潰すまでは林は忠実な犬でいなきゃならねえ。こいつが海東の忠犬でいたほうが、情報が入るからよ。俺にとっちゃ都合がいいしな」
 林の代わりに直美が答えた。
「海東をぶっ潰すまでって……なにをする気ですか?」
 恐る恐る譲二は訊ねた。
「シャブの取り引き現場のホストクラブが海東の墓場だ。おめえも海東と九州ヤクザの取り引きの件、下呂塗れ刑事から聞いたんだろう?」
 直美が悪戯っぽい表情で言うと笑った。
 海東の墓場……。
 譲二の予感は当たった。
 やはり直美は覚醒剤が取り引きされるホストクラブに乗り込み、海東を殺すつもりだ。
「そんな危険なこと、やめてください!」
「おめえは心配性だな。海東一匹潰すのは、横綱がそこらのサラリーマンを相手にするようなもんだ」
 直美が豪快に笑い飛ばした。
「海東一人じゃありません! 取り引き現場には、『東神会』と九州のヤクザがうようよいます! 見張りも厳しいでしょうし」 
「なんのために柔道馬鹿がいると思ってるんだ。海東を取り巻きから引き離す場面を作るのが、こいつの役目だ」
 直美が林の分厚く広い背中を叩いた。
「具体的にどうするつもりですか?」
 譲二は直美に訊ねた。
 海東が工藤を寵愛していたのも、林が工藤を快く思っていなかったのも事実だろう。
 利用価値がなくなれば躊躇いなく工藤を切り捨てる海東の冷徹ぶりに危機感を覚え、直美に寝返りたくなる気持ちもわかる。
 だが、安心はできない。
 林が直美に寝返ったのが本当だとしても、保身のために主を裏切る男は旗色が悪くなればふたたび裏切るはずだ。

「説明してやれ」
 直美が林に言った。「取り引きは明後日だが、ブツは明日の夜に託児所からホストクラブに運び込むことになっている。若頭は疑り深い人だから、俺らが横流ししてないか取り引きの前に必ず自分でチェックするんだ」 
「つまり前日の夜に、ホストクラブに海東が現れるっていうことか?」
 譲二は確認した。
「ああ、そうだ。チェックのときは俺以外に同行しているのは二、三人の組員しかいない。若頭を狙うならこのときしかない」
 林の言うことが本当なら、たしかにチャンスだ。
「直さん、罠の可能性もあります」
 譲二が心のままを口にすると、林の眼尻が吊り上がった。
 林を気にして躊躇っている時間はなかった。
「こうやって直さんと一緒にいること自体、もし若頭にバレたら殺されるんだぞ! 命懸けで寝返った俺を疑うのか!」
 林が血相を変えて捲し立てた。
「疑いたくないけど、そうじゃないって保証もないじゃないか! 万が一なにかが起こってからじゃ……」
「やめとけ! そんなもん、保証なんてあるわきゃねえだろうが! 罠を恐れて海東に止めを刺せるチャンスを、みすみす逃すわけにはいかねえんだよ!」
 直美が譲二を一喝した。
「でも、罠だったらどうするんですか!?」
「そんときゃ、海東とともにこの柔道馬鹿も殺すまでだ」
 直美が林を物凄い形相で睨みつけた。
「明日になればわかります」
 林は動じたふうもなくきっぱりと言った。
「もっと具体的な作戦を教えてくれよ」
 譲二は林に言った。
 林の言うことが本当でも、敵地に乗り込むことに変わりはない。
 圧倒的な戦闘力を持つ直美は天敵のいない猛獣のようなもので、警戒心がほとんどない。
 どんなに強い猛獣でも、油断が命取りになる。
 譲二の役目は、直美の隙を埋めることだ。
「俺を含めて三人の組員が、夕方の五時までにホストクラブにシャブを運び込む。その後、俺らは若頭を迎えに行く。若頭を連れて戻ってくるまで一時間くらいかかるから、その間に直さんは店内に忍び込む。カギを締める役目は俺だから開けておく」
 林が淀みない口調でシナリオを説明した。
「さっき、チェックのときはあんた以外に二、三人しかボディガードはいないと言ってたよね? ボディガードは武器を持ってるのか?」
「あたりまえだ。取り引き現場で撃ち合いになることは珍しくない。ボディガードはチャカを携行してる」
「チャ……チャカだって! あんた、なにを考えてるんだ! いくら直さんだって拳銃で撃たれたらヤバいよ!」
 譲二が血相を変えて抗議した。
「直さんもなんとか言って……」
 直美に視線を移した譲二は言葉を失った。
 いつの間にかさっきのギャルが、四つん這いになり直美のペニスをくわえていた。
 譲二は軽い眩暈に襲われた。
 この状況で女にフェラチオさせるなど、破天荒な漫画の主人公が飛び出してきたような男だ。
「撃たれたらな。俺がなんのためにいると思ってるんだ。若頭がチェックしている間、俺らは店に誰も入らないように表で警備をしている。つまり店内には、若頭と直さんしかいないってことだ」
 隣で卑猥な行為に耽っている直美を気にするふうもなく林が話を続けた。
「こういうこと言いたくないけど、すべてあんたの口約束だよね?」
「あ!? てめえ、まだ俺を疑ってんのか!?」
 林が気色ばんだ。
「仕方ないじゃないか! あんたの肚一つで直さんが蜂の巣になるかもしれない危険な橋を、渡らせるわけにはいかないんだよ!」
 譲二が立ち上がった。
「なんだとこの野郎!」
 林も立ち上がり、譲二の胸倉を掴んだ。
「二人とも座れや!」
 直美の一喝で、譲二と林がソファに腰を戻した。
「おめえらのせいで気が散って全然イケねえじゃねえか!」
 鬼の形相で直美が二人を睨みつけた。
「直さん! 眼を覚まして……」
「眼を覚ますのはおめえだ!」
 直美が勢いよくソファから腰を上げ、譲二に人差し指を突きつけた。
 譲二と林は、屹立した直美の性器から視線を逸らした。
「おめえは俺がどんな男か知ってるだろうが! 柔道馬鹿の力を借りねえでも、海東の手下が百人いても俺は乗り込む男だっ。こいつが裏切って敵に囲まれたところで、どうってことはねえ!」
「いままでとは違います! 海東は組をあげて直さんの命を狙ってるんですよ!」
 直美の怒声に挫けかけた心を奮い立たせ、譲二は訴えた。 
「だから外せねえんだよ」
 唐突に直美が言った。
「え?」
「手錠だ。おめえに邪魔されねえように、明日、海東を葬るまでここに監禁する。心配しねえでも、ミクが飯やトイレの世話はしてくれるからよ」
 直美が数十秒前までフェラチオをさせていたギャルを指差しながら言った。
「お……俺を置いて行くんですか!? 直さんのことが心配で、頂いた一千万を『千里眼』の先生に使って覚醒剤の隠し場所を突き止めたんですよ! そんな俺を監禁して連れて行かないつもりですか!?」
 涙ながらに譲二は訴えた。
 直美のためなら命を懸けられる――直美のためなら弾除けにもなれる。
 それなのに……。
「守銭奴ババアに一千万を使っただぁ!? 金をドブに捨てやがって! 戦闘力で言えば、俺がライオンでお前は猫だ。猫に危険な狩り場だからって、ライオンを止めるんじゃねえよ! はっきり言って、おめえは足手纏いなんだよ!」
 直美の言葉が、譲二の心をズタズタに切り裂いた。
「それ……本気で言ってるんですか?」
 掠れた声で譲二が訊ねた。
「あたりめえだ! おめえこそ本気で戦力になるとでも思ってんのか!? 下見に行くぞ。現場のホストクラブに案内しろ」
 直美がブリーフとショートパンツを引き上げながら林に命じた。
 譲二は手錠を嵌められたまま立ち上がり、直美と林の行く手を遮った。
「なんだ? おめえ、まだ邪魔する気か?」
「俺はたしかに喧嘩が弱いし、直さんの言うように足手纏いになるかもしれません。でも、直さんの盾になるくらいはできます! たった一発の銃弾……たった一人の襲撃かもしれませんけど、直さんの命を守れます!」
 譲二は涙目で直美をみつめた。
「譲二、おめえ、そんなに俺のことを……」
 直美が眼を見開いた。
「俺が求めてるのは勝ち負けなんかじゃありません! もちろん、海東が勝つのは困りますっ。でも、直さんが勝つということは海東の死……つまり、直さんが殺人者になるということです! もう、忘れましょう……復讐なんて忘れて、俺と一緒に海外に行きましょう! 直さんにも逃げてほしいです! 海東のことなんか忘れて、二人で『ちょこれーと屋さん』を海外で開きましょう! 俺、直さんの力になれるように、なんとかさんっていうショコラティエのもとで修業しますから! 直さんと働けるなら給料もいりません! だから、お願いします! この通りです!」
 譲二は膝を折り、直美の足元で土下座した。
「わかった、俺の負けだ。顔をあげてくれ」
「直さん、わかってくれた……」
「なーんて、言うと思ったか?」
 直美が譲二の襟首を掴んだ――身体が宙に浮き、ソファに放り投げられた。
「心配すんな。おめえに言われなくても店は出す。だが、先に海東を葬ってからだ。一億歩譲って俺にたいしての罪は許せても、若頭を殺した罪はぜってーに償わせる。おめえは俺が戻るまで、金玉をパンパンにしてる精子をミクに吸い取って貰え」
 直美は高笑いしながら部屋を出た。
「くそっ……」
 譲二の眼尻から流れた悔し涙が頬を濡らした。
 直美にとって自分は、その程度の存在だったのか? 足手纏いの厄介者と思っていたのか?
「おじさん、泣いてんの?」
 ミクが譲二の隣に座り顔を覗き込んできた。
「な、泣いてるわけない……あ!」
 ミクが譲二の股間に手を置いた。
「なにすんだ!」
 譲二は慌てて腰を引いた。
「なにって、パンパンのタマタマから精子を吸い取るんでしょ? 直さんの頼みだから特別にフェラしてあげるから」
 あっけらかんと言いながら、ミクがベルトに手をかけた。
「するわけないだろ! それより、手錠を外してくれ!」
「カギなんて持ってないわよ」
「この手錠は本物じゃない。アイスピックとかドライバーとか、なんでもいいから探してくれ!」
 焦燥感が譲二の背筋を這い上がった。
 一刻も早くここを抜け出し、林の動向を探らなければならない。
「カギの隠し場所は知ってるけど、教えたら直さんを裏切ることになっちゃうよ!」
 ミクが半泣き顔で叫んだ。
「隠し場所を知ってんのか!? 早く持ってきてくれ!」
「だめだって! 直さんを裏切れないよ! 私、直さんに嫌われたくないもん!」
「俺に脅されたって言えばいいからさ! 頼むから、カギを持ってきてくれ!」
「直さんに嫌われたら私、生きていけない……」
「お前、それだけ大好きな直さんが死んでもいいのか!?」
 譲二はミクを遮り詰め寄った。
「直さんがなんで死ぬのよ!?」
 ミクが怪訝な顔を譲二に向けた。
「お前も聞いていただろう!? 直さんは『東神会』の若頭を殺すつもりだ」
「聞いてたわよ。柔道馬鹿って言われていた人が協力するんだから大丈夫よ」
「だから、その柔道馬鹿の罠かもしれないんだよ! ボディガードが二、三人とか言っておきながら、二、三十人が拳銃持って襲いかかってきたらどうする!?」
「え……」
 譲二の言葉にミクが表情を失った。
「柔道馬鹿が海東の指示で動いているとしたら、明日までになんとかしなきゃ直さんの命が危ないんだよ!」
「わ、わかったわ……」
 青褪めた顔でミクが、タンクトップの胸元に手を突っ込んだ。
「おい、なにやって……え?」
 胸元から抜いたミクの手には、キーが握られていた。
「そんなとこに隠してたのか……」
 譲二は呆れた顔でミクを見た。
「な、直さんがここに隠したから仕方ないじゃない! 直さんはミクのおっぱいが好きだから。ミクを責めるならやってあげないからね!」
 ミクがヒステリックに叫んだ。
「ごめんごめん、俺が悪かったから早く外してくれ」
 譲二は素直に詫び、ミクに背を向けた。
 ここで意固地になられたら厄介なことになる。
 鍵穴にキーが差し込まれる感触が手錠越しに伝わり、カチッという音がした。
 解錠の音を耳にすると同時に譲二は立ち上がり、玄関へとダッシュした。

(第26回へつづく)