昨年『看守の流儀』が未来屋小説大賞の2位にランクインし、注目を集める城山真一。同作に推薦コメントを寄せた警察小説の大家・横山秀夫氏も「これは久々にどストライクだった」と太鼓判を押す。

 城山真一の最新作は初の警察小説。鬼刑事の比留は強盗を取り逃がしたうえに、娘が家出。さらには警官殺しと内部の不正に対峙することになるなど、不運の連続。だが、このダイ・ハードな刑事の生き様が、最後の1行まで熱く、心に刺さる。

「小説推理」2021年12月号に掲載された書評家・細谷正充さんのレビューと帯デザインで全編クライマックスで駆け抜ける緊迫の警察小説『ダブルバインド』をご紹介する。

 

 

 

■『ダブルバインド』城山真一

 

 石川県の加賀刑務所を舞台にした連作短篇集『看守の流儀』でミステリー・ファンの注目を集めた、城山真一の新刊が刊行された。「小説推理」での連載をまとめたものなので、既読の人もいるだろう。だが、是非とも本を購入してほしい。手元に置いておきたくなる、優れた作品だからだ。

 比留公介は、石川県警金沢東部警察署――通称「東部署」の刑事課長だ。有能で出世欲もある比留だが、アポ電強盗の新藤達也を取り逃がし、市民に怪我人を出したことが、大きな汚点となった。県警はマスコミに叩かれ、比留は左遷になるようだ。

 それでも部下たちと新藤を追い詰めた比留だが、再び取り逃がす。その翌日に、駐在所勤務の警官が殺され、拳銃が奪われるという事件が発生。防犯ビデオの映像から、新藤が犯人だと確信した比留は、彼の行方を推理する。

 こうした刑事の活動の一方で、比留の私生活が描かれる。半年前に妻が病死してから、彼は娘の美香とふたり暮らしをしていた。しかし比留と美香は、血の繋がりはない。そのことを知った美香は、高校を不登校気味になり、ついに家出してしまったのだ。どうやら美香は、実の父親のことを知りたいらしい。公私共に厳しい状況に置かれながら、事件を追う比留は、やがて極限の選択を迫られる。

 比留の捜査が進むと、次々と意外な事実が明らかになる。どこまで内容に踏み込むべきか迷うが、美香の家出が新藤の事件に絡んでくることは、いってもいいだろう。とにかく一連の事件の真相は驚愕すべきものである。ミステリーの面白さは、抜群なのだ。

 もちろん警察小説の魅力も忘れられない。県警から乗り込んできて、過去に因縁のある比留を目の敵にする刑事捜査一課長の冨島。石川県警初の女性署長の中池。捜査一課唯一の女性警部の南雲。冨島との出世争いに破れた相部……。それぞれの思惑や野心を抱え、警察組織の中で生きる刑事たちの言動も、本書の読みどころなのである。

 さらに、比留の人物造形にも注目したい。一連の事件の真相が判明したとき、彼は警察組織の保身と向き合うことになる。組織の論理と、刑事の正義感。娘への愛情も加わり、ふたつの選択の狭間で、比留の心は揺れる。それでも己の信念に従う彼の姿に、熱いものが込みあげた。

 なお本書のクライマックスは、金沢の名所になっている。今後、金沢に行く機会があったら、是非とも足を延ばし、見物したいものだ。