映画『百円の恋』『アンダードッグ』などで知られる脚本家であり、近年は小説家としても活躍する足立紳さん。著作『喜劇 愛妻物語』などの映画化にあたっては監督を務め、着々とキャリアの幅を広げている。

 そんな足立さんの新刊『したいとか、したくないとかの話じゃない』が、2022年1月20日に発売された。『喜劇 愛妻物語』『それでも俺は、妻としたい』は、売れない脚本家と妻の夫婦関係をあけすけに描いた(ほぼ)私小説だったが、今回はご本人いわく「フィクション」。セックスレスをきっかけに、夫婦の、そして子育てのあり方を問う家族小説となっている。

 とはいえ、夫婦関係の生々しさ、実体験に基づくディティールの細かさは、本作にも受け継がれている。果たして、どこまでがフィクションなのか。今回描きたかった女性像とは。そして、夫婦間におけるセックスの重要性とは。共同作業で本作を書き上げた足立紳さん・晃子さん夫妻の対談をお届けする。

(取材・文=野本由起 撮影=山上徳幸)

 

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「セックスしないと夫婦じゃない」というブレない軸がある

 

──『したいとか、したくないとかの話じゃない』には、「したい」夫と「したくない」妻のエピソードも出てきます。足立さんは『喜劇 愛妻物語』『それでも俺は、妻としたい』でも夫婦のセックスを描いていますが、やっぱり夫婦間において「する」「しない」って大事なことだと思いますか?

足立紳:バカだって言われるんですけど、俺は月に1回でも2回でもしないと夫婦関係がダメになっちゃうんじゃないかと思ってて。あくまでうちの夫婦の話ですが。

晃子:夫婦間というか、人間としてセックスをしないのはあり得ないって考え方なんだよね。

足立紳:あり得ないとまでは言わないし、それは映画を作る時の話でしょう?

晃子:『アンダードッグ』って映画でも、森山未來さん演じるボクサーが瀧内公美さん演じるシングルマザーの風俗嬢とするんですよ。「ストイックにボクシングやってるのに、なんでそういうシーンがあるんだ。余計だ」って意見もすごく多かった。でも、紳は必ずセックスを入れるんですね。『百円の恋』も『お盆の弟』もそう。入れたいんでしょ? 人間は「食う」「する」「寝る」だから。

足立紳:人間として、ほとんど当たり前のことなんでそういうシーンは入れたい。

晃子:でも、しない家庭もいっぱいあるんだよ?

足立紳:家庭内でしないだけかもしれない。どこかではしてると思うけどね。もちろんしない人も、したいと思わない人がいるのも理解はしているつもりだけど。

晃子:紳は「セックスしないと夫婦じゃない」っていう、すごく大きい軸がある気がする。そこを流せないんだよね。別に性欲が強いわけでもないし、セックスに執着があるわけでもないし、サラッとしたもんだけど、「しなきゃ」って思いが強いんだよね。

足立紳:その思いはちょっとあるかもしれない。『喜劇 愛妻物語』が公開されたときのように、また気持ち悪い男って言われそう(笑)。

──コミュニケーションのひとつと捉えているのでしょうか。

晃子:コミュニケーションのひとつというより、コミュニケーション=セックス。

足立紳:セックスしたあとって、すごい仲良くなるんですよ。

晃子:そうでもないよ(笑)。それこそ気持ち悪いこと言うな!(笑)

足立紳:1週間ぐらい、空気が全然違うんですよね。俺はあの空気がすごくいいなと思ってて。

晃子:全然空気なんて変わんねーよ!(笑)1週間空気が変わるだなんて、なんかすごいセックスしてるみたいじゃん(笑)。

足立紳:いや、中身は置いといてさ……。

晃子:マストなんだよね。

足立紳:そのほうが仲良くなるっていう、単純なことですよ。

晃子:でもこの人、拒否しても絶対折れないんですよ。普通は断ったら「わかった。疲れてるもんね」ってなるじゃないですか? でも「ちょっとだから」「10分で終わるから」ってまぁ粘る粘る。基本ゲスなんですよ。「己の欲求を満たすまで折れないのは、モラハラだ」ってママ友に言いふらしてやった(笑)。

足立紳:でも、そんなに頻繁に求めないでしょ。様子を見計らって言う。疲れてそうなときは絶対に言わない。

──どうしてもセックスしたい孝志が、恭子の機嫌を取るためにクリームパスタを作るシーンもありましたね。でも、恭子からは「脂っこいのは好きじゃない。それはあなたが好きなパスタでしょ」と一蹴されてしまう。ああいう男の勘違いも面白いですよね。

晃子:そうそう(笑)。

足立紳:断るための口実として、撒き菱をどんどん撒いてくるんですよ。「玄関の靴が揃ってない」とか、普段だったら絶対に注意してこないところも指摘してきて。そうやって断ろうとする。

晃子:それぐらい嫌だってことだよ。もっと愛されるようにしなきゃいけないんじゃないの? 余計なひと言を言わないようにするとかさ。

足立紳:その「余計なひと言」がわかんないんだよ……。

──逆に、妻はしたいのに夫が応じてくれない夫婦も登場します。

晃子:これもママ友から聞いた話で、ちょっと切なくなって。

足立紳:男性側が断られるのだって切なさは一緒ですけどね。

晃子:逆に子供が成人するまでは離婚しないけど「セックスは家に持ち込まないで外注してほしい」って言ってるママ友もバリバリいます。

足立紳:なんでそうなっちゃうのかよくわかんないけどね。俺はそうならないように、相当努力している自負はある(笑)。

晃子:また自画自賛が始まった(笑)。

足立紳:この小説でも罵声を浴びせ合う場面がありますけど、俺はあそこまでは言わないんですよ。でも、彼女はあれくらいのことをガンガン言ってくるんで。それでも俺、一生懸命コミュニケーションを取ろうとしてるからね? それにいつも思うんですよ、「まったく求められなくなったら、どんな気持ちになるんだろう」って。

晃子:そのセリフ、よく言ってるよねー(笑)。「俺、もう求めねーぞ! 俺が求めなかったらお前のことなんか誰も求めねーんだぞ!」って。何の脅しだよ(笑)。

足立紳:アキのことをお前なんて言わない。殺される。でも、そうしてやろうかなって思うこともあって。

晃子:今はマッチングアプリがあるから、どうとでもなるんだよ。

足立紳:そうやって、すぐ「マッチングアプリしたい」って言う。

晃子:別にしたいわけじゃないよ。でも、20歳から付き合ってるから、お互い飽き飽きなんだよね。それに、この人は撮影とか舞台挨拶とかワークショップの後に飲みに行けるけど、私は子供を置いて行けないから自由もない。「誰かと喋りたいな」って思いながら、ひとりで台所で飲むか、子供連れて公園でママ友と飲むしかない。ガス抜きがしたいわけ。

足立紳:よっぽどガスが溜まってるんだろうなと思ったことがあって。この前、僕と妻と息子の格闘技教室の先生で飲んだ時、セックスの話ばかりしてたじゃない? 俺、さすがに引いたからね。

晃子:その先生、すごいマッチョだし、かっこいいし、モテるだろうに「彼女がずっといないんです。結婚したい」って言うんですよ。で、「どれくらいいないんですか?」「3年です」「え、どう処理されてるんですか?」って。

足立紳:それがすごいしつこいから、俺、もう恥ずかしくて。はっきり言って、飢えてるように見えたからね。先生もびっくりしてたよ、「え、何言ってるんだ、この奥さん」って。

晃子:まぁ、セックスは大事ってことだよ(笑)。

 

第3回に続く